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いつでも「空気のような存在」に立ち戻る覚悟|#思い込みが変わったこと

ソウゾウノートでは、2022年3月25から「#思い込みが変わったこと」をテーマに投稿コンテストを開催しています。みなさんの「自分の思い込みが変わった」「周りの思い込みを変えた」エピソードをつうじて、さまざまな生き方や価値観をご紹介していきます。

今回は、パナソニックホールディングス執行役員・CHROの三島茂樹さんの寄稿をご紹介します。人事として会社のカルチャーを担い、たくさんの人との関わりを持つ三島さん。「この難局を乗り越えよう……」と必死だったときに、ある社員のひと言で“何者でもない自分”を思い出せたのだそう。

原点に立ち戻るきっかけとなった、三島さんの「#思い込みが変わったこと」とは?

三島 茂樹(みしま・しげき)
東京生まれ、大阪育ち。1987年、松下電器産業入社。本社および事業部門の人事責任者を歴任。エコソリューションズ社(旧松下電工)照明事業部門人事責任者、コーポレート戦略本部人事戦略部部長などを経て、2019年4月より現職。趣味は読書とスポーツ観戦全般。

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“空気のような自分” のたいせつさ


こんにちは。パナソニック ホールディングス 執行役員 CHRO の三島茂樹です。多くの社員と関わってくる中で気がついた「#思い込みが変わったこと」をお伝えしたいと思います。
 
24万人を抱える会社の役員といえば、人によってはもしかしたら、何事においても抜かりがなく近寄り難い、という印象を持たれるかもしれません。ただ、私は決してそのようなイメージにあう人物ではありません。
 
小学生のころ、私は空気のような存在でした。とんでもなく引っ込み思案だったのです。友達の輪の中にも入れずに、教室の中でだれからも関心を持たれない。注目されない。教室の中にいても、いないような、空気のような存在。あの時の、寂しい気持ちを感じながら聞こえた音、見えた景色、まわりの友だちの表情は、今も心の中に残っています。
 
幸いなことに、ある友人の誘いをきっかけに、中学時代にバスケットボールを始めて、それから徐々に積極的に人と関わり、あるいは人の前に出ることができるようになりました。それでも関心を払われないことの寂しさは、今も忘れることはありません。40年たった今でも、自分のアイデンティティの中には「注目されない空気のような存在の自分」がいて、それが土台になっているのです。
 

会社生活をスタートしたころは、私の時代はまだまだ男性社会で縦社会。
そんな中であっても、自分の上司がどのような属性だろうとあまり気にすることはありませんでした。

注目されない自分がベースだと思っていて、肩書きやそういうものはいずれなくなるもの。いつかは一人の元の自分に戻るだけ。そんなふうに捉えていたからです。
 
この根底にある価値観が、人事の仕事をする上でもマッチしたのかもしれません。ある意味、変なプライドやこだわりがない。だからこそ柔軟にいろいろな人と接し、意見や想いを訊きながらやってこられた、そのおかげで、今があるように思います。
 
ただ最近 、そういう自分に慢心することなく、素直な心をもって接し続けなければいけないなと思わされる印象深いできごとがありました。

数年前にある組織の責任者をしていたとき、キャリア入社してきたばかりのある社員が、どうも仕事が嚙み合っていないように感じて、気になっていました。
 
その後、しばらくして組織が変わってからは頻繁に会うこともなくなっていましたが、久しぶりに先日、ある件で会ったので「〇〇さんずいぶん雰囲気が変わりましたね。やっとPanasonicに慣れてきた?」と声をかけてみました。
 
私の中のイメージにあったその方とだいぶ印象が違ったからです。人との関わり方が洗練され、気遣いと心配りにあふれた仕事、それらがすばらしいアウトプットにつながっていました。それを相手の変化だと思って伝えたのです。
 
そこで返ってきたのは、「いいえ、変わられたのは三島さんですよ。やっと個人を観てくれるようになりましたから。以前は仕事だけを観ていましたよね」という言葉でした。
 
ええっ? という気持ちがしました。恥ずかしさと困惑のまじりあった感じでした。

相手が向き合っていないと思い込んでいたのが、実は「私が相手と向き合っていなかった」ことに気づかされた瞬間だったからです。また、そんなことをさらりと笑顔で伝えてくれた相手の人間力に感服しました。
 
思い返してみれば、そのころはたいへんな時期でした。悩みや葛藤も多く、自分なりに必死だったように感じます。まわりにいたメンバーに対しても、この難所を乗り越えるための、傲慢にも、単なる手かずとだけ見ていたのかもしれない。

そこから、自分の内面にも変化が起こりました。
気づけば、自分や自分のチームが成果をあげたり、特定の誰かを見出して成果を見届けることよりも、この会社のすべての人の仕事がうまくいってほしい、自然にそういう思いが生じ、少しずつ発言や行動も変わっていったように思います。
 
このエピソードより最近ですが、ある先輩経営者から、パナソニックの経営者は自然にそうなっていくように経営理念でプログラムされているという話を聞きました。 自分でも気づかぬうちにそのような立ち振る舞いに変化していたのかなと、何となく腹落ちしました。
 
それは、あらためて私のスタート地点である「空気のような存在」、つまりは何者でもない自分に立ち戻り、素直な心であり続けるたいせつさをあらためて気がつけた機会でした。

 
自分の頭の中にある「イメージ」や「印象」、言葉としてつい出てしまう「普通は~」といったものの前提にあるのは、無意識の思い込みです。これに捉われてしまうと、素直な心でものごとが見えなくなってしまいます。「アンコンシャスバイアス」とも呼ばれているもので、私自身もそのことについて学ぶ機会が最近ありました。
 
無意識の思い込みに気がついた瞬間というのは、人によっては少し恥ずかしいものかもしれません。とくに経験を積み、影響力のある立場になるほど、弱みをみせたくないという気持ちが強くなるものです。

ただ、そうであればこそ、私は常に自分の原点を見すえ、いつでも「空気のような存在」に立ち戻れる覚悟と素直な心を、持ち続けたいと思っています。

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