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【寄稿文ご紹介】#やさしさにふれて |文:ちあきホイみ

こんにちは。パナソニックnote編集部です。
12月3日のイベント「普通って何だろう?」にご協力いただく八方不美人のちあきホイみさんから#やさしさにふれて をテーマに寄稿頂きました!さっそくご紹介します。

★★★

最近「やさしさ」を感じたこと。

真っ先に思い浮かんだのが、現在テレビ東京の木ドラ25枠で放送されているドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』通称「チェリまほ」の脚本に満ちている、やさしさだ。

これは同タイトルのBL原作の映像化なのだが、
主演の町田啓太くんと赤楚衛二くんという超絶フレッシュイケメン俳優による“萌え萌え胸キュン青春ラブストーリー映像化”ということで、
まだ物語は第7話中盤の放送中にもかかわらず、私も含めたおばさんゲイや女装の方々の間では、『鬼滅の刃』以上の盛り上がりを見せている。

先日世間では鬼滅ファンによる「キメハラ」が話題になったが、おそらく年末にかけて、チェリまほファンによる「チェリハラ」が社会問題化するのも時間の問題だろう(←どんな予言笑)

この物語、赤楚くん演じる陰キャの主人公:安達が、童貞のまま30歳の誕生日を迎えたことで、自分と身体的接触があった人の“心の声”が聞こえてしまうという魔法のような特殊能力を獲得するところから始まる。

もう一人の主人公:黒沢は、安達の会社の同期で、容姿端麗・仕事も出来る、周囲の誰もが羨むハイスペリーマン、なのだが、
第1話、出勤時のぎゅうぎゅう詰めのエレベーターで安達と密着してしまうことで、黒沢は同性愛者であり、安達のことを長いこと一方的に大大大好き💛であることが、魔法使いとなった安達本人に知られることとなる。

陽キャイケメン黒沢のこの心の声は、安達にとってはあり得ない事態のため、最初はこの能力自体「自分の妄想?」という疑念にさいなまれるものの、その日の残業中での黒沢とのやり取りで、黒沢の自分への想いも、その心を読める自分の能力も、間違いなく本当だということが明らかとなる。

「つまりこいつの想いは、ガチ・・・!」と安達が心の声でつぶやく。

ここで、これまでの普通の地上波ドラマの脚本だと、キモイ!無理!となるところ、
安達は続けて、
「ごめんこの状況、完全キャパオーバー」
「そもそもなんで俺なんかを?こいつ仕事しすぎで頭おかしくなったんじゃないか?」
というセリフが並ぶ。

あくまで状況がキャパ越えしているだけで、ホモフォビックなセリフは巧妙に回避されている。

そして残業後、黒沢にマフラーを巻いてもらうシーンで接触→能力発動により、
改めて黒沢の自分への深く誠実な恋心を知った安達は、
「頭おかしいとか思ってゴメン」
と、すんなり状況を受け入れ、心の中で謝罪フォロー。

そのあと、終電がないことに気づき、ホイホイと黒沢の家に招かれる安達は、家のドアの前でふとまた我に返り、
「黒沢、俺に何を求めてるんだ!?ハッ!まさか襲われる~!?」
というこの手のドラマの定番の心の声が口をつくが、
ここではその直後に、
「いやいやいや、ないないないないない。それは黒沢に失礼」
というセリフがすかさず入る。

黒沢の自宅リビングに敷かれたゲスト用の布団で寝たふりをしている安達のもとに、お風呂から上がった黒沢がにじり寄るシーンで、

「え、え、え?なんでこっちく来んの?」
「え!?近!やばい!!」
「やばい、やばいやばいやばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばい!!」

と、これもまた定番の「ホモに襲われる!」を彷彿とされるシーンだが、
黒沢は奥にある携帯を取っただけで、自分の寝室に戻ってしまい、

「びっくりした~。あぁー!襲われるとか思ってマジごめん黒沢!」

と、安達はすかさず心の中で謝罪フォローを入れる。

このように、主人公がゲイから想いを寄せられ、主人公がノンケでありながらゲイとの恋に落ちていく、というBL定番モチーフドラマの序盤で、マス向けの地上波ドラマがどうしても頼りがちなホモフォビックな定番ネタを、「チェリまほ」の脚本は、安達の心の中のさりげない「やさしいフォロー」で見事に中和し、マス向けのわかりやすさと、政治的正しさを両立させている。

同じモチーフで2年前に地上波で放送された「おっさんずラブ」では、序盤の黒澤部長(吉田鋼太郎)による主人公:はるたん(田中圭)へのアプローチの中で、このような繊細な配慮が明確にない中でストーリーが展開され、ポリコレ的にはヒヤヒヤさせられながらも、物語の純粋なエネルギーで完全に突破した作品となっていた。
モチーフは違うが、BL地上波映像化である昨年の「きのう何食べた?」では、若干ヒステリックな主人公:シロさん(西島秀俊)と、これまた若干空回りした主人公の母親(梶芽衣子)を通じて、
少々説教臭くもあったが、登場人物の語りの中で、正面から丁寧に、セクシュアルマイノリティへの配慮が盛り込まれていた作品だった。

その点、「チェリまほ」の脚本は、ポリコレ的には完全に安心して見ていられるが、同時に全く説教臭くなく、少しコミカルな赤楚衛二くんの心の中のセリフで、自然とホモフォビックな表現が中和させられている、まさに現代的な“やさしい配慮”が散りばめられた脚本になっていると思う。

魔法使いになったことで、黒沢の心の声を聴き、その誠実な愛に触れて成長していく安達と同じように、
他者を柔軟に受容し、セクシュアリティの壁を超えていく安達の、そのやさしい配慮に満ちた心の声を聴ける我々ドラマ視聴者もまた、魔法使いとなったつもりで、固定観念にとらわれないやさしい人間へと、成長を遂げたいものである。


★★★

ちあきホイみさんご出演のイベントは、12月3日19:00~20:30に以下のチャンネルで配信します!どなたでもご視聴可能です。奮ってご参加ください。



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