その「普通」って誰が決めた?自分らしい個“性”を考える ―YOUR NORMALプロジェクト―(後編:インタビュー)
「性」というテーマを身近なものに
―プロジェクトを立ち上げたきっかけは、互いのモヤモヤを交換したことだったとお聞きしました。具体的にはどんな内容でしょうか。
東江: パナソニックでは様々なジャンルの商品を扱っていますが、衣食住に関するものはあるのに、性に関するものはありませんでした。「なぜないのだろう?」とモヤモヤしたのが始まりです。
白鳥: 生きていく上で、性は心身の健康や安全のために切り離せないトピックなのに、なぜか話しづらく、分割されています。もし今よりもフランクに取り扱うことができたら、どうなるのだろうという好奇心もありました。
―年代別に切り分けてプロトタイプを制作されていますが、それぞれについて詳しく教えてください。
【幼少期】性教育絵本
東江: 絵本づくりで目指したのは、親子でプライベートな話ができる関係性を築くことです。性をタブー視せずに話せる親子関係が築けたら、成長してからも気まずくならず、何かあったら相談できると考えています。
絵本には、小さな子どもが飽きずに読めるよう3つの工夫をしています。1つ目は、隠し文字を絵本の中にちりばめたこと。ブラックライトをかざすと文字が読めるようになっています。2つ目はクイズ形式になっており、保護者との掛け合いが生まれるようにしているところ。3つ目はおしゃべりする着せ替えです。SDカードに音声を入れており、服を選ぶと「すごいね!」「センスいいね!」と自分の選択を肯定してくれる仕組みです。
【思春期】ショートドキュメンタリームービー
▼思春期の子どもたちが人それぞれの"普通"にふれる機会となるよう作られた
白鳥: 思春期は身の周りに比較対象が少なく、悩みが深くなりやすい傾向があります。そこで、様々な「普通」をナチュラルに描くことで「こういう価値観が普通にあるんだ」と感じてもらえるように作りました。キレイすぎず、かと言って生っぽくなりすぎない様に、何度もやり取りを重ねました。
東江: 先日、北海道で教師をされている方から、保健体育の授業で教材として使ったというお手紙をいただきました。生徒さんからは「モヤモヤしてたことが何となくわかった」という反応があり、正解はないけれど前向きで進歩のある学びでした、と言ってくださって。すごく嬉しかったですね。
【成人期】イマーシブヘッドホン
白鳥: これは、耳元でささやかれているような体験ができるヘッドホンです。ボタンを押すと、ストーリーと共に風が流れてきます。同性にささやかれたらどんな気分がするのか、生身の恋愛しか体験したことのない人が、二次元をどう感じるか。色々な関係性を疑似体験することで、自分の志向を知ることができます。
東江: 自分が心地よい関係性を肯定するために、モノが作れないかというところから始まりました。
人によって理解しづらいのは自然なこと
―これまで触れにくいとされてきたテーマですが、進めるうえで難しかったことはありますか?
白鳥: 性というと、LGBTQの観点やセクシャルなものという認識が強い方もいらっしゃいます。健康や安全を含めた性なのだと話しても伝わらないこともあり、難しいと感じました。
東江: 年代が違うと、生きてきた環境や時代の雰囲気も違うので、伝え方はすごく考えましたね。言葉選びやビジュアル、プロダクトについても、変な取り方をされそうなものはそぎ落としました。最終的には、お互いに理解し合えるところまで歩み寄れたと思っています。
白鳥: 理解しづらい方がいるのは自然なこと。二人とも、相手の価値観を変えたいとは思っていませんし、違っていて当然だと思っています。
―プロジェクトを通してどのように会社に貢献したいでしょうか?
白鳥: アプライアンス社のビューティ商品において、YOUR NORMALの考え方を反映させたビジュアルを作らせていただきました。男性用ボディシェーバー、スチーマー、ヘアドライヤーの3商品を3名に体験いただき、それぞれのビューティについて語ってもらうものです。
今回は、男性用シェーバーを、自分のムダ毛も愛おしいと語る女性のモデルさんに使ってもらいました。これまで日本では、女性のムダ毛はない方がよいという考えが主流でしたが、彼女はムダ毛も私のビューティという価値観を持っています。また、スチーマーは美意識の高い女性が使うイメージがありましたが、この方は自分自身がヘルシーな状態であるために使うのだそう。ドライヤーは、これまで髪の長い女性をモデルに起用してきましたが、今回は豊かな髭をサラサラにしたいという華道家の男性に使っていただきました。パナソニックの製品を自分らしく使っていただく実例として、表現できたと思っています。
このプロジェクトが不要な社会を目指して
―今後の野望を教えてください
東江: 我々の最終目標はこのプロジェクトがなくなること。自分らしくいることが普通となり、一人一人が生きやすい社会になればいいなと思っています。そのためにも、引き続きビューティの様な事例を増やしていけたらいいなと思っています。
白鳥: 現在このプロジェクトに対して、海外の方を含め様々な方から反響をいただいています。今のところ女性やマイノリティの方からの反応が多いのですが、男性の方、特に年配の方からも共感をいただけるようになったら、我々のミッションが達成に近づくのかなと思っています!
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