「何が正解かなんてべつに決めなくていいね」
12月3日に行われたオンラインイベント「普通って何だろう?」。ダイバーシティ&インクルージョンシリーズの第10弾として行われた本イベントでは、ドラァグクイーンユニット「八方不美人」のお三方をゲストにお迎えし、自分らしく生きることについて、ご自身の経験から様々なアドバイスを頂きました。歌手として活躍される八方不美人さん。イベントでは3つの楽曲を披露し視聴者を魅了しました。また、現役大学生とのトークセッションでは、「普通」という概念についてそれぞれの価値観を共有しました。
追記(2021年1月28日)
イベントのダイジェスト動画を公開しました!
イベントは、八方不美人さんの『愛なんてジャンク!』から盛大にスタート。圧巻のパフォーマンスの後は、今回イベントにご協力頂いているプライドハウス東京より代表の松中権さんが登壇し、「プライドハウス東京レガシー」という拠点についての紹介がありました。コロナ禍で誰もが孤独を感じる時代。自分のセクシュアリティについて悩みを抱えている方は、一層そのような感情を抱きやすい状態にあります。「プライドハウス東京レガシー」は、誰でも訪れることのできる居場所として新宿に拠点を構え、多様性理解について発信をしている施設です。この施設は、LGBTQ当事者の方でなくても訪れることができます。アライ(理解者・支援者)として自分にできることを見つけたい。そんな思いがある人も是非足を運んでみてはいかがでしょうか。
当たり前が覆された2020年
続くトークセッションでは、プライドハウス東京の鈴木茂義さんの進行のもと、現役大学生2名と八方不美人さんにそれぞれの立場で「普通」という概念について思いを語ってもらいました。まずは、コロナ禍で変化したことというテーマから、今までの「日常」「当たり前」が打ち壊された経験を共有。田中さん(早稲田大学)は「新しい人間関係が発掘できる状態ではないが、現代はツールを使うことで今までの交友関係を保ち続けられる」と今の若者のコミュニケーションの実態を教えてくれました。田矢さん(上智大学)は「同じアプリを使っていても情報がカスタマイズされている。人によって受け取る情報や見ている世界が違うから、『普通』という概念も人によって異なっていく」と、価値観が分岐していく背景についても語りました。従来、キャンパスや職場など開かれた場所で人と交流しながら作られてきた価値観。それが顔の見えないインターネット上で代替されていくようになると、ある意味偏った世界の中で形成された価値観を、そうと気づかずたやすく世界に発信してしまうこともあるかも知れません。それは良い化学反応を生むこともあれば、他者や自分を傷つける可能性も孕んでいます。多様化する価値観を認め合うことはもちろん、時にスルーすることも、現代人にとって重要なスキルになっていくと改めて感じました。
「多様性が実現した社会に、どんなことを期待しますか?」
大学生の田中さんの質問に、八方不美人の皆さんがそれぞれの思いを答えてくれました。エスムラルダさんは「今の保護者は、男の子でもピンクが好きという個性を認めていたり、子どもの自由を大切にしている人が多いと感じる。ただ、周囲がそれを許さないでいると、子どもはだんだん自分の”好き”を我慢する。誰の権利も侵害しない自分の中の”好き”という気持ちが、奪われないようになって欲しい」と、ご自身が最近感じた思いから理想の社会について語りました。
ドリアン・ロロブリジーダさんは「多様性は、認め合うというより”ほっとき合う”ことだと思う。本当に多様性が実現しLGBTQという枠組みもなくなったら、自分達のようなドラァグクイーンもあえて取り上げることが無くなると思う」。ちあきホイみさんは「どれだけ多様性が認められても、いつの時代も悩みを抱える人はいると思う。そういう人を肯定できる存在でありたい」と、それぞれドラァグクイーンとしてのご自身の活動やそのモチベーションとあわせて答えてくれました。
みんな普通じゃない
イベントタイトルにもある「普通」という言葉。エスムラルダさん曰く、「例えば、ゲイといってもそれぞれ個性がある。突き詰めていけば、みんな違うし、普通の人なんていない」。ドリアン・ロロブリジーダさんも「『普通』とは、思考を放棄した言葉。何気ない会話の中でも使わないように自戒しています」と続けます。ちあきホイみさんは「多くの人は群れの中の羊のように逸脱しないよう暮らしていたいのが現実だと思う。そんな中で、突出しても良いんだという勇気は人生にもまれながら獲得していくもの」と、今「普通になれない」という悩みをもっている方にそれぞれメッセージを発信しました。
八方不美人さんの言葉をうけ、田中さんは「社会が多様性を認めるべきだというのは簡単だが、自分自身も”自分の弱さを認める強さ”を持つべきだと思う」、田矢さんは「目の前の人をちゃんと理解できる人になりたい」とそれぞれの気づきを語りました。
「もし、普通じゃないと言われそのことに悩んでいる人がいたら、『私は”類まれ”なんだ!』と思ってほしい」というドリアンさんの力強い言葉には、大学生も大きくうなづきました。
その後八方不美人さんのグループ誕生のエピソード等も語って頂きながら、フィナーレのライブパフォーマンスへ。終了後もYouTubeのチャット欄ではアンコールが巻き起こりました。(なんと、そのアンコールにも快くお応え下さるサービス精神…!八方不美人さん、本当にありがとうございます!)
トークセッションとライブパフォーマンスが収録されたイベントの模様は下記からアーカイブをご視聴頂けます。
記事のタイトルは、当日披露してくださった八方不美人さんの楽曲『地べたの天使たち』から引用させていただきました。
「普通」って何だろう?
そんな素朴なことを問い直すイベントでしたが、まさに「何が正解かなんてべつに決めなくていい」という力強いメッセージをいただきました。
パナソニックはダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指し、今回のようなイベント等を通じて発信を続けていきます。いつか、このイベントが懐かしくなるくらい、当然のように、多様な生き方や価値観がうずめき合う日がくる。そんな世界を期待し想像することができるハッピーな時間をみなさんと共有できていたら幸いです。ご協力いただいたみなさん、本当にありがとうございました!
▼八方不美人さんからの寄稿記事はこちら
八方不美人
作詞家 及川眠子、作曲家 中崎英也の全面プロデュースにより誕生した、個性のまったく異なる3人のドラァグクイーン〈エスムラルダ、ドリアン・ロロブリジーダ、ちあきホイみ〉からなる、新宿2丁目発、本格派ディーヴァ・ユニット。
2018年12月にデビューミニアルバム『八方不美人』を、2019年7月にセカンドミニアルバム『二枚目』をリリースし、各種イベント、メディア等に出演。最新曲は「地べたの天使たち(配信)」。
圧倒的なパフォーマンス力と歌唱力と、見るものを引きつけてやまない派手なルックス。加えて、バラエティに富んだ楽曲やNGなしのトーク等で、すでに各方面で高い評価を得ている。
田矢 美桜奈さん
上智大学・総合人間科学部社会学科
田中 謙太郎さん
早稲田大学・創造理工学部
プライドハウス東京 松中権さん、鈴木茂義さん