【SDGsスペシャル企画 第2弾】100年後の地球のためにデザインにできること
ーデザイン本部未来創造研究所 真貝 雄一郎
【メッセージ】Design,more.代表 入江遥斗さん
今やSDGsは世界的に大きな動きとなっており、パナソニックも事業活動を通じてSDGsが目指す2030年の社会づくりに取り組んでいます。しかし、実際にどのようなアクションを起こしたらよいか、自分の業務にどう落とし込んだらよいか、模索している方は多いのではないでしょうか。そこで、社内で環境問題や社会問題に対し熱い想いを持って取り組んでおられる方を取材。SDGsを自分事化し、自らの仕事に取り入れるためのヒントをシリーズでご紹介します。第2回目はリバリュープロジェクトを推進している真貝雄一郎。記事内では、若手活動家の方にもコメントをいただいていますので、若い世代の視点にもご注目ください!
INTERVIEW
デザイン本部未来創造研究所 真貝 雄一郎
捨てられる部材にデザインで命を吹き込む
遠くから見ると気づかない人も多いが、中を覗くと炊飯用の目盛が見える
―――――リバリュープロジェクトとはどの様な取り組みでしょうか。
真貝:リバリュープロジェクトは、製品の製造過程で生じる余分な部材や、通常の製品になり切れなかったパーツをもう一度活用する取り組みです。
きっかけは、パナソニックが天王洲に保有する遊休施設を複合施設へリノベーションするTENNOZ Rimのプロジェクト。空間価値をどのように上げていくか企画を出していく中で、設計を担当しているOpen A(オープン・エー)さんが既に取り組んでいたTHROW BACKプロジェクト(棄てられたモノを、再び社会に投げ返す)がヒントになりました。「今ある資産をどう活用するか」というコンセプトの施設に、廃材の再利用というアイディアが紐づきました。アイディア出しを重ねながらOpenAさんにデザインをお願いし、生まれたのが炊飯器の釜を使ったランプやアイロンの天面を使ったブックエンド、人造大理石のテーブルです。現在TENNOZ Rimにはこれらの家具が置かれており、素材をそのまま生かしながら、デザインによって新しい価値が生まれています。
プロジェクトが始まった時には工場の方とのネットワークがなかったため、品質・環境本部の方々にもご協力いただきました。実際に工場へお邪魔させていただくと、少し色が足りない、傷がついているといった理由から、製品にならなかった部材が多くありました。環境の視点から見るとそれらは出ないことが一番ですが、品質を保つために一定数出てしまうものなので、その隙間を補うアイディアだと思っています。
製品にならなかったものを売る難しさ
アイロンのブックエンドには透明の樹脂を使用し、
もともとの形がイメージできる
―――――苦労したのはどんなことでしょうか。
真貝:プロジェクトの趣旨や想いを、ステークホルダーの方々に理解してもらうことに苦労しました。例えば、工場の皆さんにとって、このような部材を社外に出すことは抵抗のあることです。どこに不安感があるかをヒアリングしながら契約のスキームを作ったり、試作品を見ていただいたりしながら進めていきました。
また、リバリュープロジェクトではこのような部材をデザイン事務所や設計事務所に販売し活用してもらうのですが、一般的にモノを納める時には品質の基準がありますよね。しかし、そもそも品質の基準に至っていない部材ですから、工場とデザイン事務所との合意を取りながら契約形態を調整していくのには時間がかかりました。
デザインや技術が、社会課題にどう貢献できるのだろう
―――――環境問題に興味を持ったきっかけはありますか?
真貝:2011年に東日本大震災が起こり、当時住んでいた千葉県も大きな被害がありました。その頃大学でデザインを勉強していた私は「デザインは社会にどう貢献できるのだろうか」と考えるようになりました。また、パナソニックに入社して2年目にインドで水の浄化プロジェクトに参加することになりました。インドでは不衛生な水を飲むことでお腹を壊す人が多く、多くの子ども達が命を失っていました。自分達の技術がどう役に立つか、どんな形で届けたら良いのかを考えるきっかけとなった仕事です。今、SDGsが注目されていますが「SDGsのために何ができるか」ではなく、目の前の社会課題に事業を通じてどう貢献できるかを考えた結果、SDGsにつながっていくのだと思っています。
入社2年目の真貝さん。インドでの調査活動の様子。
―――――SDGsに取り組む上で、デザインにはどういう役割があると思いますか?
真貝:以前リバリュープロジェクトの家具を一般の方々に向けて展示した際、アンケートを実施しました。その中で、製品に惹かれる理由は「アイディアの面白さやデザインの良さ」といった回答が最も多く、「環境に良いから」という回答は少数でした。環境に良いだけで購買行動を起こすことは難しく「環境に良い+アイディア、クリエイティビティ」が必要なのだと痛感しました。
100年後まで見据えた視点を大事にしたい
―――――今後の目標を教えてください。
真貝:今後はサーキュラーエコノミーの考え方をもっと社内に浸透させたいと思っています。これまで循環型モノづくりで推進されてきた「リサイクル」は、いったん原料に戻してから別のものを作るため、そのためのエネルギーが必要でした。しかし、リバリュープロジェクトのような「サーキュラーエコノミー型」の考え方は、素材をそのままの形で使えることに利点があります。
いずれ社会全体が環境に対しての意識を高めていった時に、製品やサービスの中から選ばれるためにも、我々は常に先を見据えおかなければならないと思っています。自分達の世代が良ければ良いという考えはもう時代遅れ。5年後、10年後は良くても、100年後はどうなるの? という視点を忘れずに、次世代に引き継いでいけるものを考えていきたいと思います。
ブランド戦略本部 スペースクリエイツ部 FUTAKO推進室
中尾 克志さん
昨年、リライフスタジオ フタコでは、アップサイクル企画展の1回目となる「いかすくらし」展を開催しました。新たなデザイン価値を与えて再生したユニークなアップサイクル・プロダクトを、ご自身のリビングにも取り入れたいと思っていただけるように意識しました。お客様には、より自分事として捉えていただくことで、企業の堅い環境取り組みとしてではなく、資源循環について身近に感じていただけたのではないかと思います。
Design,more.共同設立者・代表
横浜国立大学 都市科学部 1年
入江遥斗さん
Profile:高校1年のとき、生物の授業をきっかけにSDGsを知り、その魅力と可能性を感じる。「自分の身の回り50㎝から持続可能な社会をつくる」というコンセプトのもとで学生団体50cm.を設立。SDGs周知のための動画制作にも積極的に取り組み、SDGs Creative Award 2018 SDGs普及促進映像大賞を受賞。2020年春、横浜国立大学に進学し、新たなプロジェクトDesign,more.を立ち上げて現在に至る。 「デザイン」の力でより多くの若い世代にさまざまな課題を「ジブンゴト化」してもらいたいとコンテンツ制作や情報発信を行っている。
リバリュープロジェクトのお話を聞き、見た目の欠陥から廃棄されてしまうものを、クリエイティブなカタチに組み替えることで付加価値を生み出す点がとても面白いと感じました。古くから日本に根付く、製品の特性を活かしながら新しい用途を模索する取り組みを、他の分野でも見てみたいですし、自分も実践してみたいと感じました。
現在、私が共同代表を務めるDesign.moreでも、デザインの視点を取り入れたコンテンツを通して活動をしています。私の周りには、環境に対する意識が高く行動を起こしている人もいれば、そうでない人もいます。また、興味があってもきっかけを探している人もいます。そういった方に向けて、私達はデザインの力で背中を押す支援をしたいと思っています。今後は、世代や職業などの違いを乗り越えた取り組みに挑戦し、そこから生まれる多様性や「賑わい」を通じてSDGs実践を加速させたいと思っています。
パナソニックさんは製品を通じて人々の日常を生み出し、都市機能を支える社会基盤の役割があると考えます。持続可能な社会の実現には、個人の行動だけでは足りないことがいくつもの論文で提唱されています。機会がありましたら、個人では実現できない取り組みをパナソニックさんと一緒に探求してみたいです。
生活の改革や意識改革だけでは達成できない部分を、パナソニックさんに期待したいです。