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新たな放電方式、OHラジカルが10倍に~「ナノイーX」デバイス~

社会課題を解決し、世の中に新しい価値を生み出していくために。パナソニックは技術革新だけでなく、これまでにないソリューションやサービスの開発に挑み続けています。
今回は、飛躍的な進化を遂げた「ナノイーX」デバイスの開発者たちに話を聞きました。
*記事の内容は取材当時のものです。

従来比で10倍の効果を生み出す「ナノイーX」デバイス。ウイルスや菌を不活性化するOHラジカルが10倍になり、13種の花粉を無力化したり、アレル物質や生活臭の抑制に威力を発揮します。「ナノイー」デバイスは、2003年に初めて空気清浄機に搭載され、以来、改良を重ねながら、家電製品から自動車や鉄道車両などのBtoBへと活躍の幅を広げてきました。さらに、用途・空間の拡大に勢いをつける「10倍」のインパクト。「ナノイー」のプレゼンスを向上させる革新的な第4世代「X」が誕生しました。

体感すれば分かる、見えないナノの世界。

「ナノイー」の効果は、生活空間の快適さ。目には見えない世界だけに「本当に効果があるの?」という疑問はつきものです。しかし、「ナノイーX」のプレゼン用に考案された体験装置を前にすると、そんな疑問の前に「なるほど!」の実感が。ブラックライトに照らされた試験用の菌は、1分30秒で輪郭を崩しはじめ、約3分で消滅。脱臭のデモ実演も同様で、従来は約5分かかった「無臭になる効果」が30秒に短縮されています。

従来品と同レベルの効果に達するまで、所要時間は10分の1に。つまり、同じ時間であれば10倍の効果が得られます。デバイスから発生するOHラジカルの数は、毎秒4兆8000億個。発生量が10倍に増加し、従来はスギやヒノキなど4種類だった無力化できる花粉が13種類にまで拡大。北海道に植生するブナ、温暖な地方に多いオリーブなど日本全国の花粉への効果が期待できます。また、アレル物質の抑制は従来の「ペット由来」に加えて、菌やダニ・昆虫など9カテゴリーに拡大。「ナノイー」で効果が顕著だった脱臭においても、生活5大臭(タバコ、汗、生乾き、ペット、焼き肉)の全てで、パワーアップが実証されました。

4本針の先端で、OHラジカルが大量発生。

なぜ、10倍ものOHラジカルが発生するのか。そのポイントは、山形大学と共同開発したマルチリーダー方式の放電技術です。駆動回路は従来型と同じ1基板ですが、対極板を4本針の形状とすることで、高エネルギーの放電を実現しています。針に向けてランダムに放電が起こりOHラジカルの発生領域が拡大。その際に生じるオゾンも抑制しています。この新方式は、設計部門・製造部門が一体となって、針の本数・長さ・形状や放電の距離・角度を検討して最適化。テストパターンは100種以上にのぼりました。

製造工程には、4本の針をバラつきなく量産する「先端つぶし」を追加しました。これは、曲げた針が戻ろうとするスプリングバックを、許容範囲に押しとどめるプロセスです。「個の保証」を掲げる製造ラインでは、4本の針の頂点を結んだ重心と電極までの距離を計測し、全数検査で品質を保証しています。ものづくりで強調すべきは、変化点の少なさ。「ナノイーX」を従来品と比較すると、上部の対極板だけが異なる仕様です。だからこそ、これまで製造ラインが培ってきた知見を存分に生かせる、秀逸な設計となっています。

「ナノイー」の実績を、「ナノイーX」へ受け継ぐ。

「nanoe」のロゴマークが付いた身近な商品といえば、エアコンやドライヤーなどビューティ商品のラインアップ。約15年をかけて、「ナノイー」搭載機種はお客さまから"指名買い"をしていただけるブランドに育ちました。「ナノイーX」も、まずはBtoCの製品群から着実に実績を積み上げています。

写真提供:京阪電気鉄道株式会社

「ここまで事業が拡大したのは、BtoBのお客さまがあってこそ」。「ナノイー」の開発陣が一様に挙げるのが、車載と鉄道への採用です。「ナノイー」が初めて乗用車に搭載されたのは2007年、マツダの「MPV」から。2011年にはトヨタ自動車の「カムリ」に搭載。以来、同社のレクサスブランドやミニバンの「ヴェルファイア」など、多くの車種に採用されています。また、JR東日本の山手線車両、京阪電車の座席指定特別車両「プレミアムカー」への搭載が鉄道の代表事例。山手線は首都の大路線、京阪電車は門真・守口のパナソニックの拠点にゆかりの深い路線です。採用いただいた各社へのプレゼンや報告会にはオートモーティブ&インダストリアルソリューションズ社(現:オートモーティブ社)、コネクティッドソリューションズ社の営業メンバーも同行するなど、オールパナソニックで強固な信頼関係を構築しています。開発メンバーは、「効果が10倍になった『ナノイーX』の特長、品質の安定性をアピールして、新規車種への採用や更新につなげたい」とさらなる事業拡大に意欲的です。


【中田 隆行×デバイス設計】
まだまだ、楽しみは尽きない。 クロスバリューで、次のステップへ。

製造工程の開発過程で最大のポイントは、「先端つぶし」で針位置のバラつきを抑えるアイディアでした。いくら良い設計でも、適正なサイズで商品化できなければ、その技術は日の目を見ません。そんな悔しさも、過去には経験しました。「ナノイーX」の構造は、ものづくりの現場で皆と議論をして行き着いた形。だから私にとっては、製造ラインの資産を生かしつつ、性能を革新できたことが一番喜ばしい成果です。

今でこそOHラジカルが......、と説明していますが、「ナノイー」を発見した2003年頃には一体何が起こっているのか、詳細には分かっていませんでした。そんなスタートから、2018年の現在は、OHラジカル発生の仕組み、脱臭・除菌効果や美容の効能も解明されています。一方で「まだまだ、発見できていない世界があるんじゃないか」と私は楽しみにしています。エコソリューションズ社(現:ライフソリューションズ社)、オートモーティブ&インダストリアルソリューションズ社、コネクティッドソリューションズ社の社内パートナーはもちろん、お客さまや外部機関ともクロスバリューで連携して、さらに改善を続けたい。「この次」が大事です。

あなたの信条は?

現場・現物主義。問題点があったとき、立ち戻るべき場所はものづくりの現場です。デスクに座っていては分からない、製品を見続けている人の気づきを聞くこと。


【小野 久仁×製造技術】
設計と製造、いずれも守備範囲。イエスとノーの境界線で踏ん張る。

私が設計者に口すっぱく言うのは、「この形ができるかどうかで語るなら、できる。問題はどうやって工程管理をするか」。設計者は性能ありきで商品イメージを抱きますし、それはもちろん大切なこと。しかし、維持管理できる品質目標が見えなければ、私はイエスと言いません。ここを平行線のままにせず、譲れるところ、譲れないところをどう詰めていくか。互いに簡単にすり寄っても、ものづくりのレベルが下がる。その見極めが私の役割です。

あなたの信条は?

できない、をいつまでも言わない。設計者の考えを具現化して、パナソニックのものづくりを底上げする、育てることが使命だと思っています。自身の成長もそこにあります。


【若林 和男×製造管理】
小さな課題を置き去りにしない。フィードバックが製造ラインを育てる。

「ナノイーX」は、マルチリーダー方式の部品が大きな変化点。逆にこの部品を変えるだけで10倍の性能を引き出せているのが製造上の強みです。従来の工法が存分に生かせますし、ものづくりの管理側から言えば、ラインに取り込みやすい仕様です。従来の「ナノイー」デバイスで安定生産ができた自信もあり、新型の製造にあたっても構えることなく、「10倍の効果」が製造社員のモチベーションになっています。小さなトラブルを再発させない。これまでの地道なフィードバックが、「ナノイーX」にも引き継がれて効果を発揮しています。

私たちの近くには常に設計部門のメンバーがいますし、何か起こればひとつのチームとして動けることが大きい。とにかく、すぐに相談。当初の設計ではもっとたくさんの変化点がありましたが、われわれ製造の現場から意見具申して、一緒に安定した量産ができる「ナノイーX」の仕様を考えました。川上から情報だけが飛んできて受け身だと、「えっ。こんなのできないよ」で終わってしまう。志高く、量産に入るまでが勝負、そう考えて妥協をしなかった。やりがいのある開発でしたね。

あなたの信条は?

継続すること。変化点がなく同じに見えるラインにも、日々成長につながる改善を促して、心の面で変化を続けることです。その継続、積み重ねが製造管理の責任だと思っています。


【中川 佐和子×技術開発】
「ナノイーX」の素晴らしさを、世界中のみんなに伝えていきたい。

初めて「ナノイーX」の性能評価をしたとき、そのデータに正直、自分の目が信じられなかった。それぐらい驚きました。違う、ものすごく違う!と。幼い言い方かもしれませんが、今までの「ナノイー」だってすごく優秀な"いい子"で、脱臭効果は十分にあった。でも、早くこの「ナノイーX」デバイスが商品に搭載されて、もっとお客さまに効果を実感してほしい。自然とお客さまの前で実演するデモにも熱が入ります。

営業のプレゼンに同行してお客さまの前でデモをする、そのきっかけは私自身が「ナノイー」の仕組みを知らなかったから。動作確認や寸法の検査を担当しながら、いつも設計のメンバーに「今は、何を研究しているんですか。どこが課題なんですか」と質問していたのが始まりです。お客さまにもきっと同じ疑問があるはずと、デモ用の実験装置を考えるようになりました。これからの目標は、世界中に「ナノイーX」を知らん人がおらん、それぐらいのアピールです。例えば車載ならば本場のデトロイトで実演したり、白衣を持って出掛けていきたいです。

あなたの信条は?

多くのお客さまに商品の良さを理解してもらうこと。技術の立場で「これはイチオシ」と思ったデモが、不評だったりすることもある。楽しみながら理解してもらえるデモをめざします。


【仁田 直宏×外販営業】
技術の力がお客さまの心を動かす。その瞬間が、本当にうれしい。

トヨタ自動車さまに採用された2011年が、「ナノイー」デバイスの外販では大きな一歩。世界のトップメーカーに認めていただいたことが、私たちの自信になりました。先方の担当者が特別に推してくださり、全国のディーラーでも体験会を開催。販売店の方から「こんなに効果があるとは。体験してよかった」と言っていただいたのは、うれしかった。技術が心をつかむとは、こういうことかと実感しました。

目に見えない「ナノイー」、その効果をアピールする難しさは積年のテーマでした。お客さまへの説明では、研究機関や大学によるエビデンスを紹介しますが、画面や資料を一通りご覧になってから、関西出身の方ですと「ホンマなん?」と必ずおっしゃる(笑)。現在は、デモでその価値を体感していただけますし、「ナノイーX」は以前よりも10倍の効果ですから、見る間に効果が分かり、セールストークもしやすい。車載も鉄道も、これからはさらに海外市場にも目を向けながら、攻めていきたいですね。

あなたの信条は?

アンテナを張って、お客さまが望んでおられることに敏感になる。例えば「高いね」の一言も、必要ないから高いのか、必要だからこそ高いとおっしゃっているのかは違いますから。


【三原 史生×事業企画】
「ナノイー」とともに歩んできた。だからこそ、10倍のすごさが分かる。

われわれのお客さまには、その先にコンシューマーがいます。ですから、効果の説明も「日曜の朝、みんなで出掛ける前に車内のタバコ臭が......」など、具体的なシーンを掲げて、かみくだいた表現を心掛けています。エビデンスは、複数の大学や研究機関と協力して積み上げましたが、相手には検査手法を指定するのではなく、エンドユーザーに伝えたい効果を説明します。すると「こんな検査はどうです」と専門家ならではの提案が返ってくる。時間をかけて対話のキャッチボールをする中で、たくさんのアイディアをもらいました。

入社から約10年、私は研究所で先行開発を担当。転機になったのが、水補給なしで「ナノイー」が発生するデバイスの開発です。その試作を携えて商品部側に異動、商品化に携わりました。その後、品質保証を経て事業企画の担当へ。あれから約10年。「『ナノイーX』は、OHラジカル10倍!」と偉そうにアピールしていますが、果たして自分が技術者のままだったら達成できたかどうか。しかも、製造ラインの変更を最小限にとどめて効果10倍を達成した、開発メンバーの全員に頭が下がります。

あなたの信条は?

「後悔しない」が、若い頃からのモットーです。ただし、昔は「一生懸命やったし、後悔はしない」の意味。最近は「後悔しないために目標を設定・管理する」に変わりました。

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