「やっと会えたね」ノーミーツがソウゾウした唯一無二のストーリー
2021年10月3日パナソニックセンター東京で、文化庁メディア芸術祭協賛によるオンラインイベント「ソウゾウするちから -オンライン劇場誕生まで-」が開催されました。メインゲストとして登壇したのは、第24回エンターテインメント部門で優秀賞を受賞し、このほど「劇団」から「ストーリーレーベル」へと、新たなステージへの挑戦も発表したばかりの「ノ―ミーツ」主宰・広屋佑規さん。
2020年4月、1度目の緊急事態宣言が発令され、ほとんどの興行がストップした中、SNSでいくつもの“バズ”を巻き起こした「ノ―ミーツ」はどのように生まれ、オンライン演劇という新境地を開拓していったのか――。
2020年11月の『ソウゾウノート』の立ち上げ時に行ったオンライン展覧会「ソウゾウするやさしい展」でコンセプトムービーを制作してくれた「ノーミーツ」の旗あげからこれまで、そして広がり続ける“ソウゾウするちから”について、ご自身でも舞台芸術活動に携わっているファシリテーターの野村善文さんとのトークや、視聴者の方々の質問から探っていきました。
構成・文/宇治田 エリ
カメラマン/鈴木 渉
戸惑いの中で生まれた劇団ノーミーツ
演劇という共通点を持ち、もともと面識もあったという広屋さんと野村さん。会場で向かい合うおふたりからオンラインでつながる視聴者の方に向けて、序盤から打ち解けた雰囲気でトークが進んでいきました。まずは第24回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門の優秀賞受賞理由から、「ノーミーツ」をひも解いていくことに。
「川田十夢さんが贈賞理由でコメントしてくださっていたように、コロナ禍によって今まであたりまえにできていたことが、非日常になりました。多くの人が戸惑い、これからを考えはじめるタイミングで、僕らはいち早く『劇団ノーミーツ』を立ち上げ、新しいエンターテインメントを提示しました。そのスピード感が、もっとも重要だったのではないかと思うんです」
実際に劇団の立ち上げは、1度目の緊急事態宣言が発令された2日後、2020年4月9日のことだったといいます。
広屋さんはもともと、イベントプロデューサーとして、都市空間を活用したライブエンターテイメントを手がけていた人物。
「従来の演劇も好きですが、僕はイマーシブシアターという、観客が演劇の中に入っていけるような没入型の演劇にすごく興味があって。でも、コロナ禍で全面的にそれができなくなってしまった。そこでなにかできることはないか考えていくなかで、演劇業界で苦しんでいる仲間たちに声をかけ、プロジェクトを進めていきました」
2分ほどのショート動画
『ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。』
そこで「まずはZoomを活用した演劇作品を作ってみて、世の中に出してみよう」と、ショート動画をTwitterやYouTubeで発表。ZOOM会議でのあるあるを笑いに変えた作品『ダルい上司の打ち合わせ回避する方法考えた。』(2020年4月公開)は大きな話題を呼び、1,000万回を超える驚異的な再生回数を打ち出しました。
コロナ禍でソウゾウした、劇場のワクワク感
最初の1ヶ月は2日に1回というペースで、次々とショート動画をSNSで発信していたノーミーツでしたが、次のステップとして、長編の舞台作品の制作へと活動の幅を広げていきます。
「演劇的なおもしろさと映像的なおもしろさが組み合わさっていることが、オンライン演劇の魅力。長編にすることでより表現の幅が広がりますし、長編であれば興行的に開催することができ、持続的な活動につながると考えました」
そうして1ヶ月で制作し、5月31日に開催した旗揚げ公演『門外不出モラトリアム』は、「このまま自粛生活が4年間続いたら」をテーマに、Zoomでの会話を通して物語を展開。映像画面の横にあるコメント欄には観客のコメントがリアルタイムで流れ、劇場で感じるものとはまた違う、他者の息づかいを感じさせるものでした。
コロナ禍で多くの人を惹きつけた劇団ノーミーツの旗揚げ公演
『門外不出モラトリアム』
「有料公演でしたが、5,000名もの方々が参加してくださって。オンラインでは、同じ時間、同じ場所で見ている感じを出せないんじゃないかと思っていたけれど、コメント欄でみんなが喋りながら演劇を見ている状況が新鮮でおもしろいと思いました。演劇好きなおじさんの講釈もあれば、若い人は『www』とライトな反応することもある。多様なコメントが流れることで、リアルとは別の『みんなで観ている感じ』が得られるんだと気づきました」
オンライン上でも同じ作品を見ているんだという一体感を感じられる、そんな手応えを掴めた5月の公演をきっかけに、劇団はさらに進化を続けます。
「劇場に足を運んだ時のワクワク感、神聖な空気、観劇後の『いいものを観たな』という気持ちまでオンライン上で再現できないかなと考えて、物語にできるだけ没入してもらうための工夫を考えました」
「バーチャルな世界の物語にログインする」ような感覚で
新たなオンライン公演に挑戦した『むこうのくに』
8月2日には第2回公演『むこうのくに』を開催。劇場に来ている時の緊張感の高揚感を感じてもらうため、視聴サイトから世界観を作り込み、舞台美術の概念をオンライン演劇に持ち込むことに成功しました。
「現在劇団には26名のメンバーがいますが、完全に舞台畑の人はごくわずかで。ほかのエンタメ業界にいる人や、メディアアーティスト、エンジニアチームがいたことで、新しいアイデアがどんどん生まれましたし、テクニカルな挑戦もどんどんしていくことができました」
広屋さんたちは、オンライン演劇をエンターテインメントとして進化させるため、「オンラインでも、舞台を見た感覚を得られること」を重視。本編だけでなく、オペレーションの設計も充実させ、YouTubeなどの動画コンテンツとの差別化を図っていったといいます。
密を避けるエンタメから、独自の価値を持つエンタメへ
演劇が見られるようになってからのノーミーツは、「Zoom」や「リモート」というキーワードの使用をやめ、「オンライン」という軸だけを残して、生の演劇の代替ではないオンライン演劇ならではの価値を模索する方向へとシフトしていきました。
「今年の2月に行った『VIVA LA VALENTINE』(サンリオ)では、ワンカットで撮った映像を収録ではなく生配信することで、演劇性を引き出しました。ワンカットで撮影しながら配信を飛ばすというのは、カメラマンさんが大変なのはもちろん、技術面でも大きな挑戦となりました」
そして今後の展望についても話は広がります。
「オンライン演劇として、コンテンツのおもしろさの追求しつづけることはもちろん、オンライン興行としての成功例を増やして、演劇に関わる人の活躍の場を創出していきたいですね。さらに、オンラインで演劇には場所が関係ありません。自分たちで物語を選んでいく選択式演劇も、オンラインだから実現できること。ほかにも、国境を越えられるからこそ、世界各国の俳優に出演してもらい、世界同時演劇を実現していきたいですね」
つくり手と受け手の気持ちをつなげ、一緒に舞台をつくっていく
最後に質疑応答のコーナーへ。オンラインイベントに参加していた中高校生からの質問も飛び出し、劇団のこれからやチームでプロジェクトを成功させる具体的な秘訣などが、さらに深掘りされていきました。
「コロナ禍を機に、オンラインで演劇を視聴するのはありなんだと多くの人に感じていただけたと思います。しかし、オンラインでエンタメを楽しむような価値観はまだまだ定着していません。
僕はもっと演劇の楽しみ方の選択の幅が広がったらいいなと思っていて、より密に楽しみたい人は、リアルで。現場にいけない方、ライトに楽しみたい方、オンラインならではの楽しみ方をしたい方はオンラインで。SS席、S席と並んで、オンライン席があることがスタンダードになればいいなと思います。
そのためにも、僕らがオンラインでもっと成功事例を作っていき、リアルとオンラインが共存できる状況が作れたらと思います」
「まだ全員では会っていませんが、『ようやく会えたね』という状況がいつか生まれると思います。会わないことを前提にコンセプトとしていたノーミーツが、会えることの喜びをどう表現できるか。柔軟に、世の中で必要とされているものを見極めながら、エンタメとしてアウトプットしていきたいですね」
「たしかに最初は、演劇を知らないメンバーに演劇のおもしろさを伝えることがとてもたいへんでした。一方で、価値観をむりやり押し付けず、個々の価値観を尊重しながら『自分たちが社会のために、どう頑張るか』という方向性の共有を大切にしていきました。
そうすることで、建設的な意見をぶつけ合うことができる。リーダーとなる人は、そういったところをメンバーと共有し、常に指針を提示することが大事だと思います。
継続については、元々プライベートの時間をうまく使いながら参加してもらうというスタンスなので、今後も兼業で参加できる余白を大切にしていきたいですね。1つのことに絞るのではなく、複数のことを同時にできたほうが、柔軟で自由な発想にもつながると思いますから」
「楽しんでもらえるもっとも重要なポイントは、内容のおもしろさ。まずはそこにいちばん力を注ぐべきです。それができたら、来ていた方々に作品以外の要素でも、『いい時間だったな』と思っていただくための気遣いやおもてなしを考えることです。
たとえば、劇場に入って開演を待つ時間に、ドキドキ感を演出するとか。舞台作品では、上演前後の気配りがしっかりしているほど、つくり手と受け手の気持ちをつなげ、一緒にいい時間にしていくことができます。感動を分かち合えるような舞台にしていきましょう」
イベントを通じて印象的だったのは、質疑応答のセクションはもちろん、野村さんとのトークセッションでも終始、画面越しの参加者に向き合って話していた広屋さんの姿。
「野村さんや会場のカメラを見たほうがいいのかなと迷ったけど、ずっとPCの画面を見ちゃってました」と少し恥ずかしそうに話されていましたが、同じ空間にいなくとも、オンラインでつながり画面の向こう側にいる一人ひとりをたいせつに思う姿勢が伝わってきました。
「劇団」から「ストーリーレーベル」へと進化を遂げたタイミングで、ノーミーツがどのように生まれ歩んできたかを振り返り、これからの展望までをうかがうことのできた今回のイベント。どんな状況下でも人々が笑顔になるようなエンタメをソウゾウしていく彼らの活動に、これからもますます目が離せません!