「“未来”よりも大切なのは“今”」
(「Aug Lab」特別対談・前編)
※Aug LabのHPより転載
https://tech.panasonic.com/jp/auglab/articles/20210301.html
パナソニックは、ロボティクス技術が自動化(Automation)以外にもたらす新しい価値として、自己拡張(Augmentation)をテーマに、研究開発を行うための組織 「Aug Lab」を2019年4月に開設。
「Aug Lab」の活動は、人はどのようなことにワクワクするのか、どのような状態になるとWell-beingになるかということを工学以外の視点も加えて研究しながら、デザイナー/クリエーターなどとの共創/プロトタイピングを通じて探索していきます。https://tech.panasonic.com/jp/auglab/aboutus.html
パナソニックでは、「Aug Lab」を立ち上げ、“Augmentation for Well-being”として、人の感性や心に働きかけ、何気ない日常が豊かになる「Well-being」な社会づくりを目指している。今回は、「Aug Lab」リーダーの安藤とパノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー)主宰・齋藤氏による特別対談。前編では、「アート」「エンターテインメント」「都市開発」などを通じて多くの人の感性を刺激し、人々の心を動かしてきた齋藤氏に「これからの時代の空間」をテーマに語ってもらった。
安藤:まずパノラマティクスの活動概要を教えてください。
齋藤:(株)ライゾマティクス社内(現:㈱アブストラクト・エンジン)のアーキテクチャー部門「Rhizomatiks Architecture」を2020年の社内組織変更でPanoramatiksと改め、俯瞰的な視点でこれまで繋がらなかった領域を横断し、組織や人を繋ぎ、仕組みづくりから考えつくるチームを立ちあげました。
安藤:齋藤さんがデザインをする中で、各クライアントの強みをどのように融合していくのか、イメージしている形や理想像のようなものはあるのでしょうか?
齋藤:感覚の話になってしまいますが、私自身の中で「こうなるべき」という形があります。基本的には私のビジョンの中で必要なものを、それを持つ方々と連携しながら作りたいと思っています。やろうとしていることやゴールは同じなのに何十年と議論しても実現しないことがよくありますが、フォーマットを一つに絞ることで「コト」はスムーズに進むのです。私がやっていることはそういうことだと思っています。
安藤:そんな齋藤さんがビジョンを形にするうえで、何らかの指針、価値基準をどこに置いていますか?
齋藤:私は必要に駆られない限り、ほとんど本は読みません。一番読んでいるものは新聞です。本を読まない理由は、過去になったものには興味が湧かないんです。極論を言うと、過去にも未来にも興味がないんですよね。未来という言葉自体、あまり好きではありません。どちらかと言えば、嫌いです(笑)。むしろ、一番興味があるのは“今”です。なので、“今”を大事にしていますね。これからの姿は必ず“今”の延長線上にあります。
安藤:そういう意味では、“今”まさに世の中が大きく変わろうとしていますが、齋藤さんのご専門でもある“空間”は私たちにとってどのような存在になっていくのでしょうか?
齋藤:何をするにも楽しくやりたいし、豊かになりたいし、そして効率的でありたい。そんな中、あるべき姿を実現するためには、空間はどんな存在になるべきなのか。現状、都市空間は“こうなってほしい”という様々な人たちの期待値でできています。
しかし、当たり前のことが当たり前にできていないから、余計な問題が起きてしまう。
そこに入ってくる企業は、目指すものは同じなのに考えるフォーマットがみんな違っているのでなかなか進まないのです。一番問題に思うのは、“今”ができていないのに、未来の話をすることです。空間という定義自体も、拡張されているのは明らかです。コロナになって、いろいろなものを変えざるを得ない中、ニューノーマルを探ろうとする人もいれば、元の姿に戻ろうとする人もいます。私自身は、物理的空間は小さくなっていくと考えています。サイバー空間、バーチャル空間が存在するように、空間という概念を引き上げるフェーズに来ていると思っています。
安藤:なるほど。バーチャル空間での活動など人が変わり始めている中で、空間の意味、作るべき目標も変わってくるのではないでしょうか。空間が何のために存在するようになってくると考えますか?
齋藤:これまでは人間が変わらないという前提で、ものを作りすぎだと思っています。ですが、人は変わる。それに対応するインフラとテックが重要である、それが私の考えです。また、個人的には人間は一度、安心・安全・便利、そして快適に行きつかないと、そこに何が必要か判断できないと思っています。現実論者としてではないですが、一度みんなが求めるものまで突っ走ってみる、そこから空間のあり方を判断してもいいのではないかと思っています。一番やってはいけないことは、机上の空論です。一度実装しないとわからない世界はたくさんあると考えています。そういったことを実証するために、現在もとある実験を行っている最中です。
後編では、齋藤氏にとってのWell-being、「Aug Lab」やパナソニックへ期待することを語っていただく。
齋藤精一
パノラマティクス(旧:ライゾマティクス・アーキテクチャー) 主宰
1975年神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのを機に帰国。フリーランスとして活動後、06年株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。16年から社内の3部門のひとつ「アーキテクチャー部門」を率い、2020年社内組織変更では「パノラマティクス」へと改める。
2018-2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長。2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。
安藤 健
早大理工、阪大保健の教員経て、パナソニックロボ推進室総括。ヒトと機械の関係、Well-beingに興味有。ホントはロボよりヒトが好き。
AugLabリーダhttps://bit.ly/2YojcP1
DIGITALX連載 https://bit.ly/2BFzx80
note https://note.com/takecando