環境問題は、僕たちが解決する。大学生が「たまたま出会った」日常の灯し方
パナソニックの創業者・松下幸之助は未来を担う若者たちへの応援メッセージを数多く残しています。その思いは、いまもわたしたちの大きなテーマのひとつ。連載企画「youth for life(ユースフォーライフ)」では、若者が、自分や誰かの人生とくらしのために、その「青年の力(興味、関心、熱意、素直な心)」を大いにのびのびと、正しく使おうと模索する姿を発信していきます。
2021年4月から7月にかけて行われた「2020キャンドルナイトリレー」は、全国各地で活動する9つの学生団体が連携して実現したイベント。その東京会場として、2021年7月にパナソニックセンター東京でもイベントが開催されました。
今回、そんなキャンドルナイトリレーの実行委員会のメンバーで、早稲田大学学生環境NPO環境ロドリゲスの成瀬壮汰さんと、学生団体おりがみの土谷悠太さんのお二人にお話をお伺いしました。「環境」に対する共通する思いを胸に、イベントを通して出会った二人。なぜ二人は「環境」をテーマに活動するようになったのでしょうか。現役大学生のお二人が、未来に向けていま思うこととは?
構成・文/吉澤 瑠美
カメラマン/加藤 甫
コロナ禍だからこそ全国の学生が集まったキャンドルナイト
成瀬: 今年で25年目になる早稲田大学公認の環境ボランティアサークルです。創設当初から一貫して学生が主体となり、多様なアプローチから環境問題の解決に貢献することを活動理念として掲げています。とはいえ、さほど難しいことをしているわけではなく、近年は「みんなで楽しく活動した結果、環境や社会に良いことがあればいいよね」といった考えのメンバーも少なくありません。
環境と別のジャンルのテーマを掛け合わせ、いくつかのチームに分かれて活動しているのですが、僕が入っていたのは「環境×教育」というチーム。大学近くの小学校で授業をしたり、子どもたちと遊びながら環境について学ぶイベントなどをしていました。
ちょうど僕が大学2年生になるタイミングで、学生団体おりがみの方と会う機会があり、土谷くんの先輩にあたるその方の刺激を受けて、あらたに「環境×2020」というチームを立ち上げ、おりがみといっしょにキャンドルナイトを開催することになったんです。
土谷: 「おりがみ」という名前は、「オリンピック・パラリンピックを学生みんなで盛り上げよう」というコンセプトが由来になっているんですよ。ただ、オリンピック・パラリンピックのボランティアに応募する人のうち、実際にはその3分の1か半数ぐらいしか参加することができないということで、ならばオリンピック・パラリンピックに関われるようなイベントを「自分たちでつくろう!」という想いで始まった団体です。現在は文化、教育、国際、スポーツ、環境、福祉の6チームに分かれて活動を行っています。
今回のキャンドルナイトリレーについては、その中の環境分野のチームで「ロドリゲスといっしょに環境とオリンピックで何かできないか」という話が、僕が入学する前から進んでいて。先輩からそれを引き継いで、2021年にイベントを開催した、という流れです。
成瀬: 「オリンピック×環境」というテーマで何ができるかを模索する中で、当時のおりがみのリーダーの方が挙げてくれた「キャンドルナイト」というアイデアが動き始めたのですが、コロナで一度は立ち消えに。でも「やっぱり実現させたい」と再始動したタイミングで、土谷くんがおりがみの担当者として参加してくれました。
成瀬: コロナ前は、おりがみとロドリゲスの合同ミーティングに、ほかの地域の団体の方にもオンラインで参加してもらうかたちでミーティングを行っていたのですが、おりがみとロドリゲスが前に立つと、どうしてもほかの方が受け身になってしまい、「いっしょにつくる」ということが難しいなと感じていました。そこで「キャンドルナイトリレー実行委員会」というものをオンライン上につくり、全員が同じ距離で関わる形式に切り替えました。
土谷: 対面だとロドリゲスとおりがみは東京で集まれますが、北海道の人はどうしても地理的距離があり集まれません。でもコロナでみんなが一斉にオンラインになったことで、距離的にも立場的にも、全員が同じ参加団体同士という位置付けになり、より連帯感が高まりました。
成瀬: 北海道の方には、コロナ以前にもビデオ通話で何回か参加してもらったのですが、僕たち自身もビデオ通話に慣れていなかったこともあり、あまりうまくいきませんでした。ですが、コロナ禍でこちら側も現地の方々もビデオ通話のツールに慣れてきたおかげで、オンラインのコミュニケーションがスムーズにできたことも、活動がより軌道に乗っていった一因ですね。
原点もアプローチも違う。それでも「みんなでやる」ことを目指す理由
――そもそもお二人が「環境」に対して意識を向けるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
成瀬: 大学1年のときに、大学生活を楽しみたいなと思って見つけたサークルがロドリゲスでした。地方での合宿もあると聞いて「楽しそうだな」と軽い気持ちでロドリゲスに入り、活動を続ける中でだんだんと環境問題に興味を持つようになっていきました。
今でも僕自身は、「社会について考えるためのツール」として環境問題と接しているような感覚があります。もともと社会に対する興味のない人間でしたが、環境問題について関わることで、一筋縄ではいかない社会の難しさに触れたり、考えたりすることが増えました。
土谷: 僕は大学に入ってダイビングを始めたのですが、東京の御蔵島(みくらじま)という、沖縄と同じくらい透明度の高い海が広がる島で潜ったときに、海の上にポツンと1個だけペットボトルのごみが漂っているのを見て、「人間がごみとして出したものが、こんなきれいな海を汚してしまっているんだな」と悲しい気持ちになったことが、原点になっているように感じます。
そのときいっしょに泳いだイルカは、尻尾に釣りのルアーが絡まってケガをしていました。人間がごみを捨てなければ、動物たちはもっと生きられるし、もっときれいな海だったのだと思います。それ以来、環境問題について考えて行動しようと思って、今に至ります。
成瀬: 先輩からロドリゲスが設立されたころの話を聞いたことがあるのですが、当時は同じ目標に向かう仲間同士、「みんなでがんばろう」という空気が学生の間にあったのだろうと思いました。一方で、僕がこの4年間ロドリゲスで活動して感じたのは、環境に対する関心は多くの人が持っているけれど、その大半が「人は人、自分は自分」という考えだということです。良くも悪くも“多様“だ、ということを感じました。
もちろん昔が良くて今が悪いという話ではありません。お互いに目指しているものは違うし、同じ環境団体でもアプローチは団体によって違う。それを理解した上で、「みんなでやるにはどうすればいいのか」というサブテーマを持ってキャンドルナイトを企画していた部分があります。
土谷: 僕は最近、自分の祖父母にあたるような世代の環境NPOの方々といっしょに活動する機会が多いのですが、彼らの考え方は「次の世代につないでいく」という視点に立っていることが多いんです。一方で僕らは「自分たちで環境問題を解決する」という思いのほうが強くて、世代の違いのせいなのか、すこし意識のずれを感じることがあります。
でも、「環境問題の解決を目指す」という点では共通しているので、彼らは僕らに今までの経験を引き継いでサポートしてくれますし、僕らは横の学生たちを集めて、イベントの実働の部分で力を発揮できます。
アプローチの違いが組み合わさってお互いの良さが出るような、そういう相互作用が環境問題の解決につながるといいな、と思います。
成瀬: 目上の人に従って言われたとおりやるというより、良い意味で「利用させてもらう」くらいのつもりでいても良いのかもしれないね。たとえば先輩方のほうが顔が広いだろうから、地域の方々とつないでもらうとか。
土谷: 本当に目上の方々はとにかく知り合いが多くて、いろいろな方を紹介してくださるんですよね。僕らは大人の方々との接点が少いので、すごく助けていただいています。
学生から社会人へ。「環境」のキーワードを抱いてどう生きるか
土谷: この2年間の活動で、自分のやりたいことが環境問題に取り組むことだとわかりました。卒業後もそれを仕事にしていけたらと考えています。そういう意味で、いま注目しているのはエコツーリズム(自然や文化など地域固有の資源を生かし、その保全にも責任を持つ観光のあり方)です。僕自身、自然体験を通して環境問題に関心を持ったので、エコツーリズムやビーチクリーンのように実際に自然と接しながら自然のたいせつさを体験することは、環境について学ぶ入口としてとても意義のあることだと思います。
また、これはキャンドルナイトにも共通するのですが、「非日常の体験」が与えるインパクトは大きいと思います。自然も、都会で暮らしている人にとっては、非日常です。そういう場所で得た発見や学びは、普段の生活に戻ってからも意識すると思うんです。そういった体験から環境問題に関心を持ってもらえるような企画やイベントをつくっていけたらいいな、と思っています。アプローチの仕方はけっこう考えられそうなので、これからいろいろ模索してみたいです。
成瀬: 就活の話をすると、環境問題そのものを仕事にするのはちょっとつらいな、というのが正直な思いです。たとえばスポーツなら勝てばそれまでのすべてが肯定されるように感じられますが、環境問題には絶対的なゴールはありません。やりがいや達成感をどこに求めればいいのか難しいところだと思っているんです。
大学ではサークルとして、ボランティアとして、自分なりにできることをやったつもりですが、社会に出れば目の前の仕事や生活というものが避けて通れなくなります。まずは仕事に打ち込んで、自立した生活のたいへんさや生きるということと向き合った上で、あらためて環境問題について考えれば、また新しいものが見えてくるような気がします。
成瀬: たしかに、これまで以上にいろいろな人と出会い、対話する機会も増えると思います。
土谷: それはいいですね!
成瀬: 良い機会があったら、いつでもつなぐよ。
土谷: ありがとうございます。
たいせつなのは「まず行動してみること」。一人ひとりが社会を変える
成瀬: 先入観を持たず行動してみることが大事かな、と思います。環境問題や環境活動は、そのメッセージの強さや背景の複雑さから「関わるのが難しそう」と感じる人も多いです。僕は旅行サークルぐらいの感覚でロドリゲスに入りましたが、それが結果的に環境問題や社会に関心を持つきっかけになりました。「楽しそう」でもいいですし、「あの人おもしろそう」でもいい。きっかけにこだわらず関わってみるといいのかなと思います。
ただコロナ禍では「たまたま出会う」ということが難しいですよね。今のロドリゲスの新入生は、もともと環境問題に関心があって入る人が多くて、僕みたいに関心がなくて入った人はあまりいないらしいんです。
キャンドルナイトというアイデアも、キャンドルをきっかけに「あれは何だろう」と環境問題に関心を持ってくれたら、というところから始まりました。これから、もともと関心のない方々とどう接点をつくっていけばいいのか、どう関わっていくのか、難しい課題ですよね。
土谷: そうですよね……。でもだからこそ、僕からも環境問題にすこしでも興味があるという人には、「まず行動してみてください」ということを伝えたいです。多くの人は「自分ひとりが動いたところで社会問題は解決しない」と考えているのではないかと思いますが、僕はむしろ一人だからこそ行動するべきだと考えています。
たとえば、道端でごみをひとつ拾ったとして。もしかしたらその行動を見ていた誰かの意識に関心が芽生えるかもしれない、そこから派生して社会が変わっていくかもしれない。
そんなふうに、一人ひとりの意識が変わっていかないと、環境問題や社会問題は解決しないと思っているんです。だから、まずは「たまたま出会ったこと」に何かすこしでも思ったら、小さなことでも自分自身が動いてみよう。そこから何か始まるかもしれないよ、と提案したいですね。
[イベント情報]
土谷さんが関わっている、SDGsをテーマにした学生イベントが千葉で開催されます。全国のSDGsに取り組む学生がつながり、2030年ゴール達成に向けたアクションを考え、話し合うフォーラムです。現地だけでなく、オンラインでも参加できるので、ご興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか?
『全国学生SDGsフォーラム in ちば』
日時: 3月12日 13:30〜17:00
会場:千葉市生涯学習センター小ホール 定員40名
オンライン(Zoom) 定員100名
対象:高校生〜大学生、若者の活動支援をしている方
プログラム:
1. 全国学生団体の取り組み紹介
2. 地域での学生団体の取り組み紹介
3. 全国アクションプランの検討
4. まとめ