この、環境保護運動のパイオニアとしても知られるレイチェル・カーソンが、幼い甥と海や森を巡り、星空を眺めた記憶が描かれた優しく美しい遺作『センス・オブ・ワンダー』の一節のように、「一方的な教育ではなく、ともに楽しみながら気づき、学び合う場を創りたい」そんな想いを胸に、パナソニックは、ひらめきをカタチにするミュージアム「AkeruE(アケルエ)」をオープンしました。
2021年4月3日のオープニングイベントでは、AkeruEのビジョンに賛同いただいた、教育、テクノロジー、アートの領域で活躍する方たちと、これからの教育について考えるトークセッション『未来の教育会議 from AkeruE』を行いました。
<セッション①『これからの時代に必要な教育とは?』>
●登壇者
・井上 祐巳梨氏(STEAM JAPAN編集長、株式会社Barbara Pool 代表取締役)
・中島 さち子氏(ジャズピアニスト、数学研究者、STEAM教育者)
・松本 理寿輝氏(まちの保育園・こども園/まちの研究所株式会社 代表)
・池之内 章(パナソニック株式会社 パナソニックセンター東京 所長)
●ファシリテーター
・松井 創氏(株式会社ロフトワーク Layout Unit CLO)
誰もが創造性に向き合う文化を育てる場所
ジャズピアニストで数学研究者でもある中島さち子さんは、「創造性の民主化」という言葉でこれからの時代を表現します。
学びを実社会に還元する
子どもたちが楽しく学べる場所でありたい。そんなAkeruEを紐とくにあたり、そもそも、「学ぶ」とは何なのか改めて考えます。
まちの保育園・こども園・まちの研究所株式会社代表の松本理寿輝さんはそのポイントをこんな言葉で表現します。
アンテナをひろげ、発信する力を養うキーワードとして、AkeruEでは「STEAM」という考え方を取り入れています。
「STEAM」とは、SCIENCE(科学)、TECHNOLOGY(技術)、ART(芸術)、ENGINEERING(工学)、MATHEMATICS(数学)の5つの分野を横断する創造的な学びです。
STEAM JAPAN編集長の井上祐巳梨さんは、STEAM教育の重要性と今後の日本に求められる姿勢を以下のように示唆します。
イベントのファシリテーターであり、AkeruEのボードメンバーである松井創さんは、当事者意識の芽生えとしてこんなエピソードを共有しました。
「物」をつくる前に「人」をつくる
AkeruEのような場をパナソニックが自社のコーポレートショウルームの中にオープンさせた背景には、松下幸之助創業者から受け継ぐDNAがあります。パナソニックセンター東京所長・池之内さんは、会社に根付く考え方を紹介しました。
このコミュニティの考え方は、先の松本さんのお話につながるものがあります。学びに関するセッションで、松本さんは「全員が参加者である」というスタンスを、「アクティブラーナーは境界を持たない」という言葉で表現しました。
企業からの一方的なメッセージではなく、誰もが自分の場所としてAkeruEを使ってほしい。そうやって境い目を越えていくことは、世界を分断せず、知識や経験を縦横無尽に組み合わせ、人類共通の目標に取り組むSDGs的な発想につながる姿勢です。
さらに井上さんからは、AkeruEへの期待することとして、具体的な活用のアイデアも。
実際に展示された子どもたちの作品を見た中島さんは、その一つひとつに込められたコンセプトに気づかされた点もあったと言います。
教育から、“共育”へ――。
セッションは、そんな言葉で幕を閉じました。一方向に流れてくる情報を処理するのではなく、絡まり、ぶつかり、変化し合う空間に身を置いてみる。双方向につながり合い、自分と世界の境界が曖昧になったとき、人はどこまでも突き進んでいけるのかもしれません。
最後に再び、レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』から、こんな一節を引用して締めくくりたいと思います。AkeruEプロジェクトの傍らにいつもあった本著は、メンバーにとって憧れであり、指針であり、ひらめきの源泉です。
自分の好奇心と出会えたときの感動が、一人でも多くの人に訪れますように。AkeruEへの期待と、そこに携わる者として「こうありたい」という決意を込めて。
構成・文/串田未来(「ソウゾウノート」編集部)