多くのお客さまの声を取り込んで、自分ならではのシステムをつくりたい。
ソーシャルメディアを利用した効果的な情報発信メカニズムの解明。それが田端広野の大学の卒業論文のテーマだった。もともと田舎が好きということもあって、農学部へ進学したのだが、そこで学んだことは農業ともバイオサイエンスともあまり関係ない。どちらかというと社会人類学的な内容だ。地方の農村地域――とりわけ限界集落をめぐってそれぞれの地域が抱えている課題をヒアリングして、そういった地域をいかに盛り上げていくかといった観点でFacebookによる情報発信の有用性を研究していた。
「当時SNSのなかではFacebookが最も流行っていて、それを利用して農村地域を活性化させるためのデータ収集をしていました。どういう投稿に『いいね!』が多くつくのかを調査分析し、村おこしの活動につなげていったんです」。その研究を通して、少なからずデータ分析などの知見を身に付けることができたので、就職するならIT系のスキルが活かせる仕事にと思うようになった。
しかし、本格的に就職活動を始める時期にさしかかった時、田端の心のなかではIT企業で働くよりは大手メーカーでSE職の仕事がしたいという気持ちの方が強くなっていった。IT企業だとひとつの分野しかできなくなるのが、つまらなく感じたからだ。それより大手メーカーであれば、さまざまな商品を取り扱っている。だから、その分いろいろな経験が積めそうだと直感的に思った。
「就職活動の軸としては、メーカーを中心に情報システム部門を見て回りました。情報システム部門に絞っていたのは、漠然と共通のスキルでいろいろな経験ができると思ったからなんです」。だからこそ就職先としてパナソニックグループに注目したのは当然の結果だった。オーディオ機器、白物家電、センサー機器、各種デバイス...。さまざまなジャンルの商品を取り扱っているパナソニックグループは田端にとって魅力的に映り、他の企業とあれこれ比べて迷うことはなかった。
入社して数カ月の新入社員研修を受けたのち、田端は現在の部署である情報システム革新センター開発IT企画課に配属される。そこで今、商品開発プロセスにかかわるITシステムの企画・運営・改善活動の仕事に携わっている。「今の部署に配属されて、最初に担当したプロジェクトがとても印象に残っています。配属1カ月で毎週のようにひとりで名古屋に出張して、面識のない人たちにヒアリングして回ったんですよ」。
まだ何のスキルも知識もない新人。それにもかかわらず、現場の人たちは丁寧に対応してくれたと振り返る。「そこでできた人脈や経験が、今でも大きな財産になっているんです。当時は難しいと感じましたが、私のような新人に任せる判断をしてくれた上司にとても感謝しています。また失敗を失敗として終わらせず、経験として昇華させる会社の風土も好きです」。
しばらくして田端は、自分の所属する会社は他のIT企業と少し違って、エンドユーザーの声を直接聞くことができる環境であることに気付く。「システムの改善に取り組めるスピード感とか、システムを導入したことでどんなことが生じたかとか、お客さまから生の声がどんどんダイレクトに届くんです。だから業務上の課題や改善ポイントが比較的すぐに分かるんですよ」。
一般的に、IT系の仕事はお客さまとの接点が少ないものだ。しかし、この場所は違った。より良い商品開発を支えていることが、しみじみと実感できると言う。縁の下の力持ち的存在に思われがちな職種だが、実際はそんなことない。だから、自分の職場をITの利用や活用によるプロセス革新を推し進めることができる変革ドライバー部門だと自負している。「高品質で低価格な商品を、スピーディにお客さまに届けるための重要な部門だと思っています。それに、お客さまとの接点があまりなくても、事業に大きく貢献できるたのしさがありますね」。
田端の仕事は担当している技術分野だけでなく、営業・製造・調達などさまざまな部門や従業員との接点が多くあり、商品が生まれてから終息するまでの一連の流れが経験できる。そのため、いろいろな知見を深めることができる。
「社内の雰囲気や上司との関係は、かなりいいですね。とってもフラットな職場です。自分が納得できないことは、素直に分からないと言える雰囲気がありますし、また納得できるまで説明してくれます」。もちろん経営層などの方針は、ある程度トップダウン形式で降りてはくる。しかし、それを達成するまでの自由度の高さは、パナソニックグループならではだ。
目下、田端が着目していることがひとつある。それは、パナソニックグループはさまざまな商品群を誇る反面、それぞれバラバラのシステムを使っていたり統一化できない部分があったりするということ。このため事業部間や部門間で業務効率の低迷を招いていると言う。
「この問題をいち早く解決して、商品と拠点と職種のあいだをシームレスにつなげてグローバル規模で統一されたIT基盤の構築と導入を実現したいと思っているんです」。そこに至るまでには田端自身まだまだ知識とスキルが足りていないと感じている。いろいろな取り組みのなかで、どんどん知識やスキルを吸収していこうと闘志を燃やしている。
<プロフィール>
*所属・内容等は取材当時のものです。