パナソニックの可能性を最大限に引き出し、世の中の役に立ちたい。
高校時代、生物の先生から「学際」という聞き慣れない言葉を耳にした。学際とは、研究などがいくつかの異なる学問分野にまたがって関わる様子のこと。その先生の影響を受けて多治川直希は、大学で学際を意識した学問を専攻した。研究したのは、人間の外耳道の再現について。耳の入口から鼓膜までの部分(外耳道)の音の響き方をコンピュータ上でモデリングし、鼓膜の奥から出てくる耳音響放射とよばれる小さな音を取り出す方法を研究していた。
そんな多治川が人生の岐路に立ったのは、大学3年の時。このまま進学して研究を続けるか、それとも就職するか。二者択一に悩んだ。その答えを求めるために、早い時期からさまざまな企業の会社説明会を受けて回った。主に回ったのはBtoB事業を展開する企業。「いろいろな企業を見て回ったのですが、どの企業も技術の高さと活動の幅広さがすごい。それに衝撃を受けて進学ではなく就職して社会の役に立ちたいと思うようになりました」。
そのなかでも多治川がパナソニックに興味を惹かれたのは、大きく2つの理由があった。ひとつは、ハードウェアとソフトウェアを持つことの有望性について。強いモノづくりの力を持ちハードウェアを開発・製造できることに加え、ソフトウェア技術も持つパナソニックなら、いろんな価値をつくっていける可能性を秘めている。伸びしろがあるのではないかと感じたからだ。
そして、もうひとつの理由は創業者・松下幸之助の言葉「ものをつくる前に、人をつくる」に共感したから。実際、パナソニックの社員と話をしていて、それはひしひしと感じた。「パナソニックの方々は当時学生だった私の拙い質問にも真摯に応えてくれて、親身になって相談に乗ってもらいました」。
そんなパナソニックから内定をもらい、配属されたのがBtoB向けの機器・システムを開発・製造・販売するパナソニック株式会社システムソリューションズ社(現・パナソニック コネクト株式会社)。当初、希望していた通りのBtoB関連の事業であり官公庁や自治体向けの無線を開発する組織で、ハードウェアの設計開発に携わった。そこで多治川は回路や基板の設計だけでなく、システムLSIのアーキテクチャ設計や無線のアルゴリズム設計など多岐にわたる業務も行った。システム納入後の調整や改修のために、全国各地のお客さまのところへ飛び回ったのは、今となってはいい経験となっている。
「その頃、恩師と呼べる上司に出会ったのが特に自分のキャリアの財産になっています。当時私の取り組んでいた仕事は、既存製品の生産を継続するために、製品に使用されている生産中止となった部品のフォローが主でした。お客さまへの責任を果たす重要な仕事でしたが、自身の力で新しい付加価値を生み出す仕事へも挑戦したいと考えるようになりました。そんななか、その上司は未来志向で、最新のテクノロジーに触れる機会を与えてくれて、社外に積極的に出向かせてくれたんです」。
上司の働きかけの一環で10年後の事業を考える能力開発研修を受けた。そこで、パナソニックの持つ技術とお客さまとの強いつながりを活かせばもっとワクワクできる社会をつくっていけると確信した多治川は、未来から逆算して戦略を検討する当時本社の経営企画部にあった未来戦略室に社内公募制度を使って異動した。
「ここなら、パナソニックのポテンシャルを活かし、人や世の中のために役立つ仕事がさらにできると思ったんです。もちろん何の知見もないので不安はありました。でも、同じ部署には社外から出向してきている人や商品企画、営業、知的財産などといった多様なバックグラウンドを持つメンバーと一緒に働いて切磋琢磨することで、ワクワクできる未来が描ける気持ちの方が勝りました」。
その部署で第2の恩師と呼べる上司と出会い、多治川は飛躍的に成長する。「それまで知識もスキルも乏しかった私を、いつも叱咤激励してくれて、調査スキルや論理的思考力だけでなく、メンバーの一人ひとりの個性を活かすマネージャーに育ててくれました」。その上司とともに、不確実な未来を洞察して戦略策定へ活用するシナリオプランニングをチーム独自でつくり上げることを主導。社会の役に立てるモチベーションを維持し続けることができた。
現在、多治川は技術戦略グループに属している。パナソニックグループの全社戦略と軸が整合した技術戦略の策定がミッションだ。「私の人生は、節目ごとに大きな影響を与えてくれる人が現れて、自分を引っぱり上げてくれる連続だなと思っています。今後もそのような人が現れて、また自分をどこか他のところへステップアップさせてくれるかもしれませんね」。
入社当初からパナソニックのポテンシャルを最大限に引き出し、さらにいい社会へ変えていこうという想いは変わらない。人と世の中のために役立ちそうなことに向かって貪欲に挑戦し続ける多治川の意志は、パナソニックグループに出会ったことで、さらに加速し強固なものになっている。
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*記事の内容は取材当時のものです。