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アシストスーツで こころもアシストしたい。

中学生の頃、好きな音楽をMDに移しては毎日のように聞いていた。CDよりもコンパクトなのに、たくさんの楽曲を入れられることに関心があった。ある日、学校の社会見学で行った松下電器技術館で、SDメモリーカードを知る。展示員のお姉さんに、「SDはこんなに小さいですが、MDに比べてはるかにたくさんの音楽を入れることができます」と聞いて衝撃を受ける。その衝撃の原因は、間違いなく「技術」であることを子どもながらに感じていた。その日、彼のなかにひとつの「夢」が宿った。

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高校はSSH(Super Science High Schools)指定校に進んだ。授業の一環でロボットの研究に取り組み、新しい家電になるようなロボットを日々夢想していた。そして有名なロボットの研究室のある大学に進み、大学院まで同じ研究室でヒトとロボットのインタラクションを研究。複雑な運動をいとも簡単に行う、人の運動メカニズムを解明する人間工学の研究に没頭した。

パナソニックを選んだのは、数あるメーカーのなかでも家電の新しい分野を創造できる可能性が高いと感じたからだ。入社後配属されたのは、本社にある研究部門。「非接触血圧測定技術」の開発に2年間携わった後、異動希望を出して「アシストスーツ」の技術開発チームに加わる。現在は、奈良県にある株式会社ATOUNに駐在しながら、ワイヤ型アシストスーツの商品化をめざし、同社との共同開発を行っている。これは、身に付けることで、高齢者など足腰の弱った人の歩行機能をアシストするもの。膝パッドの中に仕込まれた加速度センサーが人の歩行動作を読み取り、その周期を予測して腰に付けたボックス内のモータでワイヤを引くことにより歩行を誘導する。この製品のプロトタイプが、昨年5月にコードネーム「HIMICO」でリリースされた。ATOUN社との共同開発が始まって、わずか半年後だった。

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パナソニックが持つワイヤの制御技術をベースに、ATOUN社の小型軽量化の技術とノウハウを駆使し、「着る」感覚に近づけていくコラボレーション。しかし、最初から順調だったわけではなかった。「パナソニック側の開発担当は私一人でしたので、ハード、ソフト、回路と、すべてを理解しなければいけませんでした。そして、パートナーであるATOUN社の方々にこちらの技術情報を共有しつつ開発していくわけですが、やることが多すぎて少しパニックになってしまいました」。だが、自分で手を上げて飛び込んだプロジェクト。他社との共同開発でもあり、途中で投げ出すわけにはいかない。

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「死ぬ気でやろうと腹をくくりました」。そこからは、彼が自分でやれることと、やれないことを明確に整理し、計画を立ててATOUN社と共有することで、プロジェクトは一気に進み出した。そして、迎えた試作品のテストの日。被験者は、杖がないと歩くことが難しい70代後半の女性だった。「アシストスーツを身に付けたおばあちゃんが、ゆっくりと歩き出した時、涙が出てきました。そして、『こういうものを待っていたんです!』『ありがとう!』と言っていただいた時は、嬉しかったですね。諦めずにこの開発を続けていて良かったと思いました」。

ATOUN社に駐在して約1年半。彼は大きく成長した。「パナソニックの研究室にこもって仕事をしていた頃は、人ではなく技術に目がいっていました。今、私は使っていただく人のくらしに寄り添って、驚きや感動を与えるものを開発したいと思っています。アシストスーツでめざしているのは、心のアシスト。歩行能力をアシストすることで、その人が自信を取り戻し、生きる希望が湧いてくる。そんなモノづくりをめざして、日々努力を重ねています」。彼が中学生の頃に抱いた夢は、今、大きな実を結ぼうとしている。

<プロフィール>

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村上 健太(むらかみ けんた)
研究開発
イノベーション推進部門 / 株式会社ATOUN駐在
2014年入社 基礎工学研究科卒
子どもの頃は、野球のリトルリーグで4番打者。高校OBによるマスターズリーグでは大阪大会を勝ち抜き、甲子園で戦ったことも。一方、友人と定期的に読書会を行うほどの読書好き。その振幅の広さが、製品開発に活かされているのかも知れない。

◆パナソニック採用HP
https://recruit.jpn.panasonic.com/

*所属・内容等は取材当時のものです。



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