"YOUR NORMAL" STORY 1.
YOUR NORMALプロジェクトは、心と体のあり方、ジェンダーロール、関係性など 自分らしい人生を生きるために、性の幅広さの理解と考え方のアップデートに取り組むプロジェクトです。性を考えることへの偏見や障壁について考え、誰もが最も自分らしく自然体でいられる個"性"のもと、それぞれが自分の選択へ自信を持ち生きていくことができる社会の実現のため、企業として商品やサービスの選択肢をユーザーと一緒に模索する活動として取り組んでいます。
このインタビューは、人それぞれ異なる“普通”にふれ、「自分らしさ」を見つけるきっかけとなるよう制作した、ショートドキュメンタリームービー出演者に、自分にとっての"普通"をより深く語っていただいたものです。
(ショートムービー再生)
https://youtu.be/nz8_WMKDbRU
心地のいい自分の体や心のあり方を模索する時、すぐに自分らしい姿を見つけるのは難しいかもしれない。それでも自分らしさを探してしまう私たちは、どうやって毎日向き合う鏡の中の自分と、自然体で接していくことができるのか。今回は、映像の中で今のパートナーとの素敵な関係性と暮らしの様子が印象的だったとまっちょさんに、自分らしい生き方の選択をするようになるまでのヒントをお聞きしました。
-----プロフィール-----
とまっちょ
NPOや企業の営業コンサルタント部長。LGBTの学生の団体やHIV予防啓発のチャリティー団体に所属。クラブでダンサーや写真集のモデル、最近は会社でのプロポーズ動画が話題に。マルチなインフルエンサー。趣味はお菓子作りとカフェ巡り。
ー こんにちは、今日はよろしくお願いします。今回、とまっちょさんに映像に参加していただいた際、パートナーの方との仲の良さがとても印象的だったのですが、今の彼とはどこで出会ったのでしょう?
最初は、彼の一目惚れだったんです。実は以前、クラブのダンサーをしていたのですが、レインボープライドの際にダンサーとして呼ばれて。パレードを歩いているときに、見つけてくれたのがきっかけでした。彼はシャイなので、その時は何もなかったのですが一年後にたまたまSNSで発見して、「以前は怖かったけど、ダメもとで話しかけてみよう。」と思ったそうなんですね。僕は今、会社の人事も担当しているのですが、SNSでメッセージを受け取った時、ちょうど仕事ができる人を探していて。誰でもいいから会ってみよう、というタイミングだったんです。そこで会ってみると、僕も会った瞬間から「この人、素敵だな。」という感情になってしまって。2回目会った時には「やっぱりこの人と付き合いたいな。」と思って、入社するか否かというタイミングで、会社の社長に「付き合いたいと思ってるんですけど。」って正直に伝えたんです。時差はありましたが、お互いに一目惚れという形で付き合うことになりました。
ー 「仕事だから」と蓋をしてしまいそうな場面で、自分の感情を大事にされていますよね。それって実は、普段生活する中で難しいことのように感じます。自分自身に、とても素直な方なんだなと思ったのですが、幼い頃からそういった性格だったのでしょうか?
僕、小さい頃から自分のことを女の子だと思っていたんです。姉が、ボーイッシュな感じを好んでいたのもあって、女の子用とされる服を「絶対着たくない」っていう風に言ってたんですね。その結果、母親が僕にその服を着せてみようとしたのがきっかけで。僕にとっては、その服を着るのも嫌じゃなかったし普通だったので、性別っていう概念がなかったんです。でもそれを着る中で、小学校の時に初めてジェンダーの壁にぶつかったんです。小学1年生の時は髪が長くてポニーテールだったのですが、男子トイレに入ると、周りからは「女の子が男子トイレに入ってきて、立ちションしてる」っていう見た目だったんですよ。ある時には、自分の性器を切り落とそうとしたこともありました。姉と母親の体を見たときに”すごく綺麗だな”って思って、”何で自分には、こんなに汚らしいものがついているんだろう”って。痛かったので、やめましたが。僕の世界では自分が「女の子であること」が普通だったんですけど、社会生活を始めた瞬間から、なんていうんだろう「あっ、これは普通じゃないんだ」っていうことに気づいたんですよね。でも、それが悪いこととか、いいことっていう考えはありませんでした。でも、そのまま続けてたら少しずついじめに発展して、見た目の違いっていう点で小学校6年間ずっといじめられました。その時に「見た目が女の子だから、いけないんだ」と思ってしまって、すごくストレスで。当時いじめてきていたのが女の子だったからか、自分の中では「女の子がいけない」みたいな考えになってしまい、自分が女の子っぽいこと、が嫌になってしまったんです。その結果、男っぽくなるにはどうしたらいいかな?って色々考えて、だんだん見た目が男の子になっていったという状態です。
ー 元々は自分を女の子と認識していたところから、自分の中での”男の子像”みたいなものを描いて、変わろうとしたんですね。その過程において、自分の中で違和感はなかったのでしょうか。
そうですね。僕の場合、たまたま体が男の子で、心は女の子だった。当時から自分の中では、好きな人は男の子だと思っていたんです。いじめのこともあって、「男の子っぽくなるためには」と考え始めた頃から、自分が好きな子と同じ見た目になれるっていうことがわかって。僕の場合は、筋肉のあるスポーツ選手に憧れがあって、もし自分が女の子の体だったら男性のスポーツ選手にはなれないじゃないですか。でも「あ、頑張れば同じようになれるんだ」って思ったらポジティブに考えられるようになりました。男の子になりたいっていうよりも「憧れの人物になろう」というイメージでずっと考えてきた感じですね。だから、やっぱり性別とかじゃないんですよね、自分のなかでは。
ー 自分の中で、こういう「存在」に自分はなりたい、という像を追いかけてきたんですね。
そうです。実は、今も性自認は女の子なんです。ただボーイッシュな女の子、男の子を演じてる女の子なんですよね。周囲からすると、きっと複雑なんですけど。小さい頃は自分が二重人格になったようで、素直な言葉で喋れなくて。男の子だったらどう思うか?で全部発言する、みたいな感じだったので、その時はすごく違和感がありました。それを投げ捨てた時、初めて楽になりました。
ー どんなふうに、その葛藤や違和感を乗り越えたのでしょうか。
髪が長いことが理由でいじめられていたので切ったのですが、いじめはなくなりませんでした。そしてちょうどその頃、親が交通事故に遭ってしまい家庭が大変な時期があったんです。小学生ながらに、いじめっていう問題に自分で立ち向かっていかないと家族的にも大変なことになるなってことを思って、そのために”男の子になろう”って、はっきり思うようになりました。小学校の頃は自分が二人いるみたいな状態だったのですが、それが辛くて。病院の先生から「ストレスが大きく、厳しい環境にいるからそうなるんだよ。」って言われた時に「もっと自分らしくいたい」って、思ったんですね。そこで、高校入学のタイミングでは自分を隠さずに最初から性自認とセクシュアリティについて、公表したんです。すると、たまたま僕の席の後ろの女の子がレズビアンで、左隣の子がトランスジェンダーだった。本当に偶然、そういう環境に恵まれたんです。そこで「あっ、自分のままでいていいんだ」って思えるようになってから、2丁目でコンドームを配るボランティアを始めて。そこで初めて、自分以外にもLGBTの人がいるんだって気づくことができて、自分のことを責めなくなりました。「ありのままでいよう」ってなった結果が今ここに、ストレスなく、日々楽しく過ごしているというところに繋がった感じですね。ストレスを感じてしまうと体調が悪くなってしまうから、っていうのが1番の理由で、今はストレスを抱えないことを最優先にして生活しています。
ー 仲間ができたことが、一つ転機だったのかなと思うのですが。やはり誰かしら身近に同じように思っている人や、同じような感覚を持っている人の存在って大きいですか?
そうですね。仲間がいたから耐えられた、乗り越えられたものがあったのかなと思います。だから僕も高校生の頃から、ボランティアをしていました。学生向けに『君は一人じゃないよ』って講演したり、学校で校長先生にアプローチをして、横浜にあるレインボーセンターシップという場所からいただいたポスターを貼ったり。LGBTでも一人じゃないんだよって、伝える活動をしていました。
ー 今のパートナーとの関係性を職場に公表していることについて、職場の方達、社長の理解も大きいのかなと思うのですが、やはり職場において自分らしくいれることは重要ですか?
大事ですね。今一緒に働いている人たちの中でも、LGBTQであることを公表しているからこそ、この会社で働きたいってなった人たちもいるし、逆に他の部署とかでカミングアウトせずに働いていたけれど、実は、って僕の部署に入ってくる子とかも増えています。今、会社には若い人が多く、実は他の会社でパワハラを受けた経験がある人たちが、耐えられなくなって来ている場になっていたりします。ジェンダーやセクシュアリティに囚われない、逃げ道を作りたいという思いで、今の会社で頑張っている感じです。現在の会社は、新しい意見は取り入れていくし、社長や会長と直接会話ができるので、言いたいことを言える環境を作ってくれているんです。だからLGBTのサポートについても、一緒に考えてくれるんですよ。社内で新しく部署を作るにあたって周囲の人を誘う際、僕が集めるとLGBTの当事者が多かったんですよね。そうすると、先に理解のある環境をつくっておかないと、他の人たちは傷つけようと思っていってるわけじゃない言葉でも、実は傷ついているっていうのに気づかずに、ストレスになっちゃう可能性があるなって思ったので、何を言ったらだめなど、社内教育するところからスタートしようと思いました。
ー 自分が誰かのために動けることって、パワーが必要だなとも感じます。例えば、言ってもわかってもらえない、という状況もきっとあるわけじゃないですか。そういうフラストレーションとは、どうやって向き合っていますか?
例えば、親とコミュニケーションする際、セクシュアリティについて言ったことによって把握はするけど、理解はできないみたいなのは結構あって。”知っている”のと”理解している”って違うんですよね。話を聞かない人に話を聞かせようとするのって、すごく体力がいる。だったら、その人と無理に話さなくてもいい。伝えても、理解しようとしない人に対してはアプローチをかけずに、自分自身で、自分の仲間を作っていくっていう考えになったんです。だから僕の場合、親とはあまり話さないです。嫌いとかじゃなく、その点に関しては話さなくてもいいかなと。それは、逃げではないと思っています。
ー ストレスがない状態でいることが重要だからこそ、自分らしくいることをとても大事にしてると仰ってましたが、日々工夫していることや、大切にしてるってことありますか?
自分が言いたいことは、はっきり言うって決めています。会社の部下たちにもよく話すのですが、例えば会社をよくするためには皆がお互いに抱えている不満を解消していかないとという気持ちがあって、どうやったら意見を言ってくれるか、文句を言ってくれるかっていうのを大事にしています。ただ相手が傷いたり、怒らせてしまうことがないように「言い方を考える」っていうのをずっと大切にしていて。僕自身、何回も言い方を間違えて失敗した経験はあったのですが、失敗を恐れずに言い方を気をつけながらやり続けたら、今は、なんでも言えるようになりました。言ってみないとわからないけど、それで相手が傷ついたら自分の責任だから。自分の発言に対して誰にも頼らない、っていうのは一番最初に心がけたんです。
ー 自分自身が思い切って伝えたことに対して、否定的な意見を言われた時、逆に自分が傷つくことはありませんか?
それについては、否定的な意見が意見なのか悪口なのかで判断している、っていうのを心がけていますね。もしかしたら優しさで言っているのかもしれないっていう捉え方をしていくと、どんなきついことを言われたとしても、”もしかしかたら僕のためなんじゃないか”って。逆にポジティブな先入観を持って、会話をするようにしていますね。
ー 自分のために言ってくれてるかもしれない、もっと関係性をよくしたいって思ってるかもしれないって思うのは、相手を全面的に信じないとできないことだなと感じます。それができるのは、先ほど仰っていたように”傷ついても仕方ないや”って思えているから?
ちょっと恥ずかしいのですが、BUMP OF CHICKENの唄で『飴玉の唄』っていうのがあって。一番最初に『僕は君を信じたから もう裏切られることがない なぜならもし裏切られても 裏切られたことに気づかないから 』っていう歌詞があって。誰かを疑って誰かを傷つけるくらいだったら、全面的に全員を信頼して、自分が傷つくんだったらそれでいいかなって思えるようになったんです。信じたっていう責任は、自分が負えばいいだけだから、他人を傷つけることはないよねって。だから恋人ともよく喧嘩になるんですけど、最終的には信じているから「お前が言ったことは信じるよ」って。もし、例えば他人が悪いことを言ってきたとしても、お前が確認してお前がやってないっていうんだったら、もしやってたとしても俺はお前のことを信じるからねって。それを恋人だけじゃなく、関わった人すべてにそう思うようにしています。だから本当は内心では”この人悪いこと考えてるんじゃないか”とかはあるんですけど、それでも、自分は信じるって決めたから何が起こっても信じるし、それを信じた結果失敗するのであればそれはもう自分の責任だと思って行動をするっていう感じです。
ー 誰かに対して、そこまで自分自身で負うことって結構覚悟がいるじゃないですか。結局相手からの信頼も感じられないと成り立たない気がするし、自分を信じなきゃいけないっていうハードルもあるなと思いました。そう考えるようになって、何か変わったことはありますか?
僕がいじめられていた時は全員から嫌われていたので、自分は何で嫌われてるのかなって思って、自分のだめなところを自由帳に書きまくったんです。その時に、いいことノートと悪いことノートを全部書いたんですね。悪いことノートは自分の悪いところを全部書いて、いいことノートには人気者の子がなんで人気なのかっていうのを書き続けたんですね。その時わかったのが、人気な子たちは何か特別なことをしているわけではなくて。ただ、みんながその子のことを知ってるんだなって気づいたんです。人は何かを怖いと思う時、知らないことを怖がるっていうのが人間の習性である気がして、相手が多分自分のことを全然知らないから嫌われてるんだなって思って。じゃあまずは、自分のことをこの人たちに知ってもらわないといけないなって思って、僕から信頼しないと相手も知ろうともしてくれないって思ったんですよね。もしかしたら自分にとって辛いことがおこるかもしれないけど、誰も僕のことを好きじゃなかったのでそれでも、今よりはましだろうって。だから、嫌われるよりも、知ってもらって嫌われるのと、知らないで嫌われるのだったら、知ってもらって嫌われる方がいいなっていうので、全部出すようになりました。
ー 小学生なのにすごい、とかそういう話ではなく。幼い頃から自分と向き合った時間が多かったから、これだけ自分らしくいるための方法を知ることができたんだなって感じます。今回”あなたにとっての普通とは?”というテーマがありましたが、とまっちょさんにとって”普通”ってなんでしょう?
恋人ともよく喧嘩になる理由が、相手の「普通」と僕の「普通」が違うからなんですよね。例えば、基本的に僕の私服はいつも周りからもダサいって言われるんですけど、僕にとってはそれがファッションでおしゃれしているつもりなので、もう曲げないって言い続けているんです。「普通」っていうのは、人によって違うのかなっていうのがあって、僕の中の「普通」とあなたの中の「普通」は違うけど、でもそれが同じ普通があった場合は楽しいよねって。別々の普通があったら、あっそんな考え方もあるんだね、やらないけど、みたいな。そういう別の世界を、客観的に見ることができるものかなって。だから、「普通」っていう言葉自体は、僕の中であまり存在しないのかも。「普通」がなさすぎた。でも僕の会社の人たちは多分、今の社会からすると全員普通じゃない人たちの集まりなので、そしたらそれが「普通」なんですよ。その会社内では。なので「普通」っていう言葉は、使わないですね。恋人間では、絶対に使ったらだめっていうルールにしていて。絶対、喧嘩の原因になるから。辞書にも、あんまり必要ない言葉じゃないかな。時代によって、変わっていくし。その変化に追いけない人たちは「普通じゃない人」ってなるけど、またそれはそれでおかしいなって。自分のコミュニティがどこかによっても、変わってきますよね。って考えるとみんな「普通じゃないな」ってなるんですよ。みんな違うことが、それが「普通」っていう考え方ですかね。
ー ありのままの自分でいることが難しいと感じる人もいると思います。そんな人たちにひとこといただけますか?
自分にとっての「幸せ」がなんなのかっていうのを、まず自分の中で決めるといいかもしれません。例えば、会社では「お金をもってて幸せだと思うんだったら、まずはお金をもつ努力をしよう。他にもし、自分が幸せと感じることがあるんだったらそれを全力でやり続けよう」って言ってて。僕自身は、人のために何かをすることによって幸福感を得られるタイプなんですね。だから、そのために何ができるかっていうのをいっぱい考えた結果、「誰かを助ける仕事」を軸にしている。僕の場合はやっぱり、いじめられていた時は絶対に幸せじゃないって思ってた。でも、同じようなことを悩んでいる人たちがいたら助けたいなっていう風に思った時にはじめて、多分それが未来の夢になって、仕事でそういう人たちを助けたいって思えるようになった。そしたら、その後に起こる全てのことに対して、それを経験したことによってもしかしたら同じ経験をしている人の気持ちがわかるかもしれないから、今はきっと打開策を考えられるチャンスをもらってるんだって。そういう風に、考え方や見る方向を変えるってことで、自分が幸せを感じられるきっかけに繋げられるかもしれない。どんなに辛いことがあったとしても、その夢に向かって行ってるっていうのがわかれば幸せだなって思います。
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