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“普通か/普通ではないか”の2択ではない世界に。性教育パフォーマー ラビアナ・ジョローさんインタビュー

人にやさしいモノづくり。それはパナソニックの、創業以来のDNAです。そして今、その考えをさらに進化させ、インクルーシブデザインに取り組んでいます。様々な視点を持つ人たちと対話を重ね、今まで見落とされていた声を拾い上げ、一緒に解決策を考える。このアプローチで、あたらしい「やさしさ」のかたちを追求し、みんなが幸せになれる未来を目指していきます。

Panasonic Inclusive Designサイトより

 どんな人も安心して心地よくくらせる環境をつくるためには、テクノロジーの活用はもちろん、それぞれの違いに目を向け、発見し、新たなアイディアに変えていくための視点が必要です。

 パナソニックでは、4組の方々のそれぞれに違う「ふつう」の日常から、私たちが考える「やさしさ」のかたちを改めて見つめ、動画を公開しています。そこで今回は、動画に出演してくださったラビアナ・ジョローさんに、今、社会に必要だと感じる視点と、ラビアナさんらしいくらしのあり方についてお話を伺いました。


この姿でいることができて
すごく楽しい

― 今日はとっても素敵な衣装とメイクですね。普段はどんな1日を過ごされていますか。
 
普段は一般企業に勤めていて、平日は会社員として働いています。オンラインイベントや取材が入る時は、夕方になるとメイクをしたり。週末は仕事が終わってからそのまま新宿2丁目に駆けつけて、パフォーマンスすることが多いです。
 
―― お仕事はどんなことをされているのでしょう?
 
コミュニケーションマネージャーとして、セクシュアルウェルネスの会社で働いています。対外的にコミュニケーションをとったり、自社のプロダクトやサービスについて発信したり。以前からドラァグクイーンの活動をしていたのですが、そこに性教育の要素を入れていたんです。パフォーマンスをするクラブでは性に関してリスクのある行為や場面に立ち会うこともあるんですね。そういった経験から、セックスだけじゃなく、自分や相手を大切にすることを考えてもらいたいなと思うようになって、今の会社で働き始めました。
 
―― 「会社員の自分」と「ドラァグクイーンの自分」に、ギャップを感じることなどはありますか。
 
最初に出来上がったときの自分の姿を鏡で見た時は「誰?」って、新しい人がいるような感覚でした。でも慣れていくと、今度は他の人の反応がすごく面白い。化粧していない時と、している時の反応が全然違うんです。同じことを伝えようとしても、ドラァグクイーンの格好の方が反応してくれるし、立ち止まってくれる。話をする時に相手の感情が豊かに感じられて、その人たちが解放されている気がするんです。私が変わっているというよりも、相手が変わる。すごく面白いなと思います。

楽屋のようなところで、鏡の前でドライヤーで髪を整えているドラァグクイーンの方
髪をセットするラビアナさん

―― ドラァグクイーンの世界へ足を踏み入れたきっかけは何だったのでしょう?
 
社会人1年目は新しい環境や仕事に慣れていくことで精一杯だったのですが、2年目でつまんなくなっちゃって。何か新しいことをやりたいなと思い、自分の趣味を全部かき集めたらこうなっちゃったんですよね。昔からメイクに興味があって、小さい頃からお母さんのメイク道具も隠れて使ったりしてたのですが、なかなか勇気が出せずにいたんです。あとはYouTubeのメイク動画を見たり、踊るのもすごく好きだったので。
 
―― 若い頃は、メイクをすることにハードルは感じていましたか?
 
見つかったら怒られるのかなとは思っていました。親からやるなと言われたことはないんですけど、なんとなくそういう意識がありましたね。でも実際に筆を滑らせると、本当に絵を描いてるみたいな感じなんです。今は、例えば「性的同意のメイク」といったテーマを作って、それを表現することも。どういうふうにこのテーマをメイクにしようって考えるプロセスがすごく楽しいんです。自分のアイディアを、メイクを通して表現してるみたいな感じかな。
 
―― メイクをしてみたいと思っても、性別を理由に最初の一歩をなかなか踏み出せない人ってまだまだ多い気がします。
 
私も、初めて外に出かける時はすごく緊張しました。2ヶ月間ぐらい家でしかメイクしていなかったんですよ。安いコスメをたくさん買って、家でずっと練習していました。2ヶ月経って、これだったら外出できるかな?と思って初めて遊びにいったんですけど、めっちゃ緊張しましたね。

楽屋のようなところで鏡の前でメイクをしている後ろ姿
メイクをするラビアナさん

―― 心の準備期間が必要だったんですね。
 
そうかもしれないですね。最初の頃は、クラブのイベントにメイクをしていった時、知り合いもいたんですけど、「可愛いね」「名前なんて言うの?」って気づかれなくて。「え、私だよ」って(笑)。そうやって、ちょっとずつ慣れていきました。
 
―― 実際に踏み出してみてよかったと思いますか?
 
この姿でいることができて、やっぱりすごく楽しいですね。知らない人でも、ドラァグクイーンの姿だからこそ話してくれることが増えるというか、心を開いてくれる人が多いのかなと。

”知る”ことで、
自分を肯定することができたら

―― 胸の毛は”アイデンティティ”だそうですね。
 
私のシグネチャー、こだわりです。小さい頃から毛深くて、昔は剃っていたこともありました。特に女性は「ムダ毛を処理するべきだ」というプレッシャーって強いですよね。そもそもムダ毛って何?と思うし、生えてくるものだからしょうがない。だから、剃りたいなら剃れば良いし、剃りたくない人は剃らなくてもいいでしょ。剃らなくても綺麗でしょ。っていうのを見せるために、あえて生やして見せています。
 
―― 確かに、自分の美の基準を決めるのは難しいですよね。周りからの刷り込みなのか、それとも自分の意思なのか、わからずに悩んでる人もいる気がします。
 
最近眉毛を剃り始めたんですけど、自分の中に変化があったんです。化粧するときに眉毛が結構邪魔になっていたのですが、キャンバスが真っ白になった感覚。いろんな表現ができるようになったと思います。「あってもいい毛」と「なくてもいい毛」は自分で決められるということを感じますね。例えば、ひげ。ゲイ界隈ではひげがあった方が絶対にモテるんです。それをあえて逆行のことをするというか、自分をその枠にはハメたくないので私はひげ脱毛を選んでいます。
 
―― 現在の価値観に辿り着くまでには、どんな変化があったのでしょう。
 
性教育と出会った頃から、考え方が変わったと思います。性だけではなく、何で自分は日本人じゃないの?という時期もありました。ミックスルーツであることや、セクシュアリティのこと、周りの「普通」とは何かちょっと違うなと、小さい頃から感じてはいました。「どの女の子が好きなの?」といった質問から始まるし、「どこ出身なの?」「日本語上手ですね」といった話ばかりで。何で?と思っていました。だけど「性教育」を知って、ジェンダーやセクシュアリティについて知って。それまで「普通」か「普通じゃないか」の2択だったものが、シスジェンダー/トランスジェンダー/ノンバイナリーとか、ヘテロセクシュアル/ホモセクシュアルみたいに、様々なんだと知ることで自分自身の認識が変わり始めたんです。日本において外国人として生活することと、日本人として生活することってそもそもベースが違うんだなということにも気づきました。
 
私はシングルマザーの家庭で育ったのですが、生活が何でこんなうまくいかなかったのかを振り返ると、やっぱり社会的に女性と男性では経済的なことも全然違う。それが外国人だとまた違ってくる。シングルマザーで外国人であるが故の違うハードルがあるというか。自分が置かれた状況に対して親を責めた時期もあったのですが、いろんな事情や背景を知ったり知識を得たことで、だからこうだったんだ、とわかった気がします。

大切なのは、
選択肢があるということ

―― “自分らしく”いるために、まだハードルを感じることはありますか?
 
どこでも男女で分けられることが、苦しいと思うことはありますね。特に、銭湯は苦手です。海外のスパに行った時、更衣室が全部一緒だったんですね。そこは水着を着て入るんですけど、更衣室はみんな一緒で、個室があってそこで着替えて入る。そこは、私としてはすごく入りやすかったです。だけど、日本の文化や慣習が根付く銭湯をガラッと変えることは難しいと思っているので、新しい選択肢をつくっていけたら良いなと思います。あとはこの前靴を買いに行った時、レディースで可愛いものを見つけたので「これが欲しいです」って言ったら「こちらはレディースなので」と言われて。サイズもあったのに何でダメなんだろう、って。

楽屋のようなところで鏡の前でメイクを確認している 左手前には別の人が着替えている
メイクを確認するラビアナさん

―― クラブやパフォーマンスをする場所も、誰もが当たり前にアクセスしやすい場所とはいえないとおっしゃっていましたよね。
 
やっぱりまだまだ誰もが楽しめる空間にはなってないことが、私はいつも気になってしまう。前提として、特に身体に障害がある人は、クラブに行かないよっていう決めつけや勝手なイメージがあるのかなと感じます。でも、私の周りにはいろんな身体のある人がいるんです。聴覚障害のある人や、車椅子ユーザーの子もいる。その子たちとクラブにきても、もちろん楽しい。一緒にスピーカーに手を置いたり、車椅子に乗って踊ったり、楽しめるし、一緒に行きたい。だから、設計の時点で制限されてしまうのはすごく悲しいですよね。
 
―― 「誰もがアクセスしやすい場所」として思い浮かぶ場所って、実際にありますか?
 
少ないですね。渋谷に1ヶ所クラブがあったのですが、取り壊しになってなくなっちゃった。今の施設でも、改善の余地はあると思います。ちょうど今いろんなところで、再開発が進んでるじゃないですか。その時に、様々な当事者の視点を入れて欲しいなと思います。
 
―― 一部の人だけでつくると、気づかないことがいっぱいあると思います。
 
私もショーなどで会場にスクリーンがある時は、歌詞を表示したいなと考えています。海外だとコンサート会場に手話通訳の方がいたり、先日のスーパーボウル*の時もノリノリの手話通訳の方が話題になりましたね。みんな同じように何かに楽しみを見出していて、アクセスしやすいかどうかの違いがあるだけなんだなと思っています。障害があると、申し訳ないという気持ちを無理やり社会から持たされてしまうと思うんです。友達の話を聞いてると周りに助けられることを申し訳なく感じ、外出を控えちゃうそうで。誰だって障害を持つ可能性はあるし、できることとできないことに違いがあるのは悪いことじゃないのに。だからこそ、いろんな視点でいろんな考えを入れることが大切。今の世界って建築からシステムから制度まで、一部の人のためだけに最適化されている。そこにちょっとでも当てはまらない人たちは、我慢を強いられる社会だなと思います。
 
*スーパーボウルとは、アメリカ最大のスポーツイベントと言われているアメリカンフットボールのプロリーグ「NFL」の優勝決定戦のこと。アメリカンフットボールの最高の大会であり、アメリカ合衆国最大のスポーツイベント

”交わる”ことで
見えてくる世界

―― いわゆる「当事者」ではない問題について自分のこととして考えるのは、難しいと感じることもあると思うのですが。
 
例えば、聴覚障害のあるダンサーの子と話をしている中で、聴覚障害って全く耳が聞こえないと思いがちだけど、特定の音が聞こえない人がいたり、片耳が聞こえない人がいたり、聴覚障害のある人が必ずしも手話を使って話すわけでもないということを最近知りました。グラデーションがあって、皆違う。だから、友達と会話をしていく中で想像力を働かせて、その人にとっての日常って何だろう?って考えています。そんな風に話を聞いていたら、いろいろと考えるようになりました。
 
―― もっと機会を創出したり、本当にいろんな人達の日常があるよっていうことを知ることも大切なのかなと思います。
 
いろいろな人の日常を知る機会ってほとんどないじゃないですか。自分と違う体をしてるとか、自分と違うアビリティーがあるとか、いろんなジェンダーやセクシュアリティだったりとか。社会規範に当てはまらないことって、なかなか目に見えないし、目にしない。だから、広告なども含めて何か見える形でいろんな人のありのままを映して当事者の世界とつながれることは、すごく大きいと思います。

楽屋のようなところで、ドラァグクイーンの方々が四人、並んで鏡を見ている
鏡に映る4人のドラァグクイーン

―― 目に見える形をまずつくって、その先に交わる機会をどうやって作っていけるのかについてちょっと考えられたら良さそうですね。

インクルーシブデザインって何だろう?と考えた時に、選択肢があることが大切なのかなと思っていて。1つのもので全部マッチするのってなかなか難しいと思うのですが、今の社会って1つ以外の選択肢がない。選べるっていうのは楽しみのひとつにもなるし。あとは例えば、企業の役員の方とかにドラァグクィーンの体験をしてもらいたいですね。メイクして、ウィッグつけて、ステージに立って、ヒールで歩く。普段と違う自分を体験した時、何を感じるのか聞いてみたいなって。私も駅で、車椅子ユーザーのルートを使ってみるんですけど、思っている以上にすごく遠かったりするんですよ。こっちの出口に出たいのに、逆の方にしかエレベーターがなかったりする。そういう見えづらいことが世の中にはたくさんあると思うので、なかなか交わらないところを交じらせる、何か違う視点を持つきっかけをつくる、みたいなことを今後やってみたいです。


Profile
ラビアナ・ジョロー(ドラァグクィーン、性教育パフォーマー、they/them)
ブラジル生まれ日本育ち。自身のセクシュアリティやジェンダーアイデンティティに悩んだ際に出会った性教育と、社会的に創り上げられた女性らしさやジェンダー規範で表現するドラァグクィーンというアートを組み合わせた異色の存在。日本各地のクラブで性教育パフォーマンスをする傍ら、様々なイベントでトークショーやMC、執筆、翻訳などもこなす。性科学会会員、セックスミュージアム設立準備委員会メンバー、不妊症・不育症ピアサポーターでもある。

▼ドラァグクイーン ラビアナ・ジョローさんの「ありふれた毎日。」
 フェイスシェーバー編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー

▼ドラァグクイーン ラビアナ・ジョローさんの「ありふれた毎日。」
 ドライヤー編 / パナソニックインクルーシブデザインコンセプトムービー

“何気ないふつうの、ありふれた毎日。当たり前でもあり、特別でもあるその時間が今日、明日とあることが“幸せ”のひとつであるならば。パナソニックは、それぞれのふつうに向き合いながらそれぞれにちがう人の、ちがうくらしのあり方に寄り添っていきます。”

※障害の漢字表記に関して:スムーズな読み上げを実現するために、障害という単語を漢字で表記しています。

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