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「世界を変える方法って?」現役高校生が目指す“問い”があふれる社会

「若鳥よ。烈風に身をかがめるな。はばたけ。まろびつころびつ限りなくはばたけ。」

創業者・松下幸之助は未来を担う若者たちへの応援メッセージを数多く残しています。その思いは、いまもわたしたちの大きなテーマのひとつ。パナソニックでは、熱い思いを胸に挑戦をする若者たちを応援しています。

2021年9月、そんな若者たちと一緒に進めているプロジェクトのお披露目イベントが行われました。「小・中学生がSDGsについて考えを巡らせ、問いを立てるきっかけになるように」という目的のもと開発中の「SDGsキット」のワークショップ。このキットの開発には、若くして社会問題の解決や未成年の活動支援のために奮闘する高校生たちが深く関わってくれています。

今回、キットの開発に協力してくれた一般社団法人「Sustainable Game」の代表で現役高校生の山口由人さんとメンバーの中川優さんに、SDGsキットに込めた希望、そしておふたりが思い描く理想の社会や自身の展望についてお話を伺いました。次世代を担う高校生たちはいまの社会に対して何を望み、どのような世界を目指しているのでしょうか。

Sustainable Game
社会を「誰一人取りこぼさない世界をつくるゲーム」であると捉え、共創でビジネスとみんなの未来をサステナブルにする次世代チーム。現在、約35名の中高生を中心に、さまざまな企業を巻き込みながら社会問題に対しての課題解決や理解を広めるために活動している。その内容はサステナビリティをテーマとした企業研修やZ世代に向けたソーシャルグッドな公開オーディション型リアリティ番組の企画・運営などさまざま。幅広い層に手が届くよう、多岐にわたる事業を展開している。

構成・文/須藤 翔(Camp Inc.)
カメラマン/白井 晴幸


目指したのは「教える」ではなく「広げる」教材

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「さわって学ぶ」をテーマに、SDGsについて小中学生が遊びながら学ぶことができるように開発された「SDGsキット」。

プロジェクトの発端は、パナソニックが掲げる「理想のくらし」の実現に向けて、社会の課題を見出し解決できるような「人」を育んでいくにはどうしたらよいか、と考えたことから。

長年オリンピック・パラリンピックのスポンサーとして、パナソニックセンター東京ではオリンピズムや多様性を学べる展示やワークショップを実施。この催しには毎回、近隣の小中学校から多くの子どもたちが参加してくれていました。

2021年夏に「持続可能性」を掲げて行われた東京2020大会のレガシー(社会遺産)として、また近隣の学校と連携して続けてきた教育活動の新たな展開として。いまあらためてパナソニックにできる教育に役立つ活動とは何か? をいちから考えたことがきっかけとなりました。

大きなヒントになったのは、展示やワークショップに訪れる子どもたちの「学校のSDGsの授業はおもしろくない」「SDGsという言葉は知っているけど実感はない」という声や、教育現場に携わる方からの「SDGsについて深く学ぶための教材もなく、じっくり考えてもらえるような授業ができていない」といった生の言葉でした。

そこで、この「SDGsキット」では、知識を伝えることを前提とするのではなく、キットを起点に子どもたち自身の思考が展開していくような仕組みづくりを目指すことに。「次世代を担う子どもたちが自分たちの中に疑問や問いを持つことが、社会問題の解決につながる」という考えのもと、子どもたちが手を動かしながら自ら疑問を見つけられるよう設計していきました。

そんな経緯でつくられ、Sustainable Gameの高校生たちに協力いただきながら、ようやくかたちになったSDGsキット。それではさっそく気になるキットの中身と、はじめてのお披露目となったイベントの模様をお届けします。

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さわって、学んで、話し合う

「世界を変える方法って知ってる?」

正解も間違いもない、どんなことにも疑問を抱き考えることがたいせつ――そんな想いでつくられたSDGsキットのイベントは、「思考を広げるキット」にふさわしい、大きな問いかけからスタートしました。

今回お披露目となったのは、17あるSDGsの目標の中から、小学生の学習レベルにあわせ選定された「生態系」と「紛争」をテーマにした2つのキット。

それぞれ小学生4〜5人とSustainable Gameのメンバーである高校生ふたりを交えた、2グループに別れてワークショップを実施しました。どちらのグループも和やかな空気の中はじまりましたが、いざキットの蓋をあけワークショップが進んでいくと、子どもたちもどんどん真剣な表情でプログラムに向き合っていきます。

まずは「生態系」のグループから。テーブルに置かれた木箱をあげると、色とりどりのイラストが描かれた、きれいなアクリル製の重りが目に飛び込んできます。どうやらこのキットは、ツリーに水や光、さまざまな動物が描かれた重りを乗せていきながらバランスを取っていくもののようです。

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「水がなくなったらどうなるかな?」「ダンゴムシは本当に必要?」「人間が増えたら?」どの重りが増えても減っても、ツリーのバランスはすぐに崩れてしまいます。子どもたちは自分のなかに芽生えた問いをすぐにキットで試し、遊びながら生態系バランスの難しさとたいせつさを学んでいきます。

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プログラムの終わり際にはキットといっしょ一緒に置かれた図鑑を開きながら、自発的に知っている動物や生態系の知識を共有し合う子どもたちの姿もありました。

一方、「紛争」チームの手元に置かれていたのは、一見ただの草木に覆われたジオラマ。子どもたちもその不思議な見た目に興味津々でしたが、表面を覆う草木のシートの裏にはなんと、地雷やロケットなど紛争が終った後も人々の命を危険にさらし、悲劇を生み続ける不発弾が隠されていました。

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対話がメインのプログラムであるこちらのキットでは、小学生たちが地雷の模型を片手に、紛争に対するクエスチョンと真摯に向き合います。まだ知ったばかりの不発兵器や紛争ついて浮かんだ疑問を次々に投げかける子どもたちと、それに対し自分の言葉で真剣に答えていく高校生の姿に、このキットがつくろうとしているコミュニケーションの形が見えたような気がしました。

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私たちは、もっと社会に参画できる

実際にワークショップに参加しながら、完成したキットを体験したふたりの高校生。「ドイツで暮らしていたときの経験からSDGsに関わる活動をはじめた」という山口さんと、「中高生が社会に参画する機会をつくりたかった」という中川さんに、キットの話を通じて彼らが持つ課題意識や目指す社会について伺いました。

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――社会問題の課題解決や未成年の社会参画に向けて幅広く活動するSustainable Gameのおふたり。今のような活動に参加するようになったきっかけにはどのような出来事があったのでしょうか?

山口: 僕は幼少期をドイツで過ごしたのですが、ある時期に紛争の影響でシリアから多くの難民が流入してくることがあったんです。そのとき彼らは貧困やカルチャーの問題、ひどい差別に苦しんでいて。

自分自身も当時はマイノリティーですから、同じ立場として何かできることがないかと悩みましたが、結局そのまま日本に帰ることに……。

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山口: 少し経って、ちょうど入学した日本の中学校でもSDGsが取り上げられ始めたのですが、授業では現代史の一部として扱われているような感じがしたんです。そのときに思い出したのがドイツでの経験でした。世界に苦しんでいる当事者がいるなか、その人たちの力になるためにはこのSDGsという世界最大の社会実験に、自ら参加することが大事だと思って。

自分がそんな社会活動に参加する方法を模索するなか、当事者の立場になって物事を考える能力を身につけるために中学2年生のころに始めた活動が、Sustainble Gameの原型になりました。

中川: 私は1年前にとある縁で「問いとはなにか」を考えるイベントに参加したとき、ほかの人たちと自分の意見や疑問をぶつけ合うことで、自分の考え方や知識がどんどん深まっていくことに気がついて。

もっとそういった社会を考える機会、ディスカッションに参加したいと思ったのですが、調べてみると高校生が参加できるようなイベントがぜんぜん企画されていないことがわかったんです。参加したいという気持ちはあるのに、そういう場所がすごく少ない。

だけど、社会には当たり前に子どももいるし、私たちにもそういった社会を考えるディスカッションに参加する権利はあるはず。私たちのような未成年が社会に参加する機会をもっとつくりたいと思って、すぐにこの団体にメールをしました。

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――おふたりともご自身の経験からSDGsや未成年の社会参画に関心を持たれているんですね。今回のSDGsキットのプロジェクトには、どういった経緯で参加を決めたのでしょうか?

山口: そもそもSustainable Gameは、自分たちだけの力で社会を良くしていくのではなく、周りの大人や組織を巻き込んで、それぞれが持つ強みやリソースを生かしながら、社会を良い方向に変えていくことをたいせつにしています。

SDGsキットは小学生や彼らの教育現場を意識しているということで、まさにそうした自分たちの手が届かないような領域への事業。パナソニックさんからお話をいただき、自分たちが力になれるのであればぜひ参加したい、とお返事をしました。

――今日のワークショップ体験を通じて、自分たちが制作で伝えた意見はどれほど反映されていると感じましたか?

中川: SDGsキットに関しては、軸になっていたポイントがしっかり反映されていてうれしかったです! 私から伝えたことは「もっとリアルを見せてほしい」ということと、参加した子に疑問を残す終わり方にしてほしいということ。

キットのデザインはイラストがメインですが、やはり実際の写真や映像を見ることでしか得られない衝撃やイメージがあると思っていて。今日の体験では図鑑や本がキットと一緒に置かれていたので、そういった写真もいっしょに見ることができました。

イベントの構成も、用意されたひとつの答えにまとまってしまうのではなく、これからも思考が広がっていくような問いを残すようなプログラムになっていましたね。

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中川: ただ、ひとつだけ気になったのは、少し説明の時間が多くなってしまっていること。子どもたち同士で話せる時間を増やしたり、質問もより広いものにしたりと、今後はもっと参加者に問いを立ててもらえるようなプログラムにできたらいいなと思っています。

山口: そうですね。いちばんの目的は子どもたちが自発的に問いや思考を持てるようになることだと思うので、最終的には授業やワークショップに使われるだけでなく、生徒たちにとってより身近な存在になっていってほしいです。たとえば休み時間にみんなが自然とキットで遊びはじめて、放課後にそこで気づいたことを実行に移したり、より深く調べてみたり。そんな連鎖が起きたら最高ですね。

――最後に、おふたりが考えている今後の活動の展望を教えてください。

中川: 高校生とか大学生のうちにしておきたいのは、未成年でも自分の意見や社会に対する疑問を伝えられるイベントをつくることです。というのも実は私、まだ友だちにSustainable Gameの活動を伝えられていなくて……(苦笑)。

いつかは言いたいと思っているんですが、学校の友だちとはSDGsや社会活動の話なんかはしないので。「急にどうしたの!?」って思われてしまうのが、まだどうしても恥ずかしいと思ってしまってるんです。

でもだからこそ、こういった活動をしていることを自信を持って伝えられるような社会をつくるために、まずはみんなが関心を持つきっかけになるようなイベントを増やすことが、高校生である自分にできることだと信じています。

山口: 講演で地方の高校に話をしにいくこともあるのですが、興味があっても家や友達同士でそういった話をする雰囲気でなかったり、学校でも話す機会がない人たちがとても多いんです。おそらく世代としてはどんどん関心が高まっているのに、そういった環境的な要因で諦めてしまうのはとてももったいなく感じています。

Sustainable Gameとしても、そういう気持ちを持った方々を支援するようなプロジェクトも今進んでいますし、未成年がもっと社会活動に参加するためのインフラを整えられるような活動をしていくつもりです。

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高校生同士での活動だけでなく、多くの世代や企業を巻き込みながら活動を広げているSustainable Game。今後パナソニックと取り組んでいく活動も、理想のまちづくりを探求するワークショップや、サステナビリティをテーマにしたオーディション番組の運営など、多岐にわたります。

そうした活動を通じて彼らが実現しようとしているのが、大人はもちろん子どもたちも自由闊達にディスカッションに参加でき、さまざまな問いや考え方があふれる社会。

「世代や企業の垣根を超えて多くの人々と共創し、私たちの未来をサステナブルに」そんな想いで挑戦を続ける高校生たちの姿に、いま多くの人々が共感し、共に社会を変えるべく立ち上がっています。


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