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マキヒロチさん「モチはモチヤという祈り」|僕らの時代 Vol.14

若き人びとよ。つくりあげられた今までの世紀のなかで、あなたがたは育ってきたけれど、こんどはあなたとあなたがたのこどものための世紀を、みずからの手でつくりあげなければならない時がきているのである。

(出典:『続・道をひらく』PHP研究所)」

自分らしい価値観をたいせつに、志をもって活躍している人とコラボレーションしていく「僕らの時代」。第14回目のゲストは漫画家のマキヒロチさんです。

松下幸之助が未来を担う若者へのこしたメッセージに、今を生きる私たちはなんとこたえることができるでしょう。

幼い頃から抱いていた夢をかなえ漫画家として活躍するマキさん。夢に一途に歩んできたマキさんだからこそ感じる、仕事や才能の多様化についてつづってくださいました。

マキヒロチ/漫画家

第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。『いつかティファニーで朝食を』では「朝食女子」というワードもブームに。現在は人生の岐路に立つ女性たちが新しい街で一歩を踏み出す姿を描く『それでも吉祥寺だけが住みたい街ですか?』、スケートボードに魅せられた女子の挫折と再生の日々を描いた『SKETCHY』(ともにヤンマガサード)、ホテルに魅せられ新しいライフスタイルを模索する人々を描く『おひとりさまホテル』(月刊コミックバンチ)を連載中。

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★★★

「モチはモチヤという祈り」


関西で営業があり、ひと仕事を終えて若者が集うおしゃれな居酒屋で関西弁に包まれながら、一人ほろ酔い気分で松下幸之助氏の著書を読む。

どの一篇も情熱的でメッセージ性が強くて、きっと読んだだけで救われた人も多いのだろうと感じる。もっと努力しようとかもっと耐えねばと、実践し生活に活かすことがあるのかもしれない。

しかし私は「いかにしたくないことをしないで生きていけるだろうか」としか考えてこなかった人間なので、少しぼんやりしてしまった。

小学2年生の時に漫画家になりたいと思い始め人生を決めてしまい、それ以外の無駄なことはなるべくしないで生きていきたいと勉強もろくにせず、仕事も最低限のことしかしない省エネの人生だった。

運よく漫画家になれて、運よくヒット作に恵まれて、本当に運がいいだけの人間である。そんな人間から未来へのバトンになるような言葉などあるのだろうかと考えると酔いも覚めてくる。

1980年生まれの私は20世紀も21世紀も生きているけれど、22世紀にはこの世にいない。

22世紀には人々は1.5倍速どころか5倍速10倍速で映画を観て、メタバースよりもっと進化した世界で生きているのかもしれない。私が日々創造している『漫画』というものも縦スクロール以上に従来の漫画の形をしていないだろう。

「恋愛」というジャンルはすでにないと聞いた。
「恋愛」+「〇〇」+「〇〇」といった3点盛りでワンセット。引き算したところでそれもある意味足し算なのかもしれない。

今まで当たり前だと思われていた価値観が無くなった未来で私が勝負できることなんてあるのだろうかと、想像するだけで眩暈がしてくるので21世紀で生涯を全うできて助かった。

はあ、しかし困った……。松下氏のように未来に生きる人に向けて伝えたいことなんておこがましくて何も思い浮かばない。
同じタイミングで席に着いた隣のカップルはもうお会計を頼んでしまった。

もう一度松下氏の著書を読み返す。
するとさっきは読み飛ばしてしまったかもしれない『素人と玄人』という一篇に目がとまる。

“モチはモチヤというけれど、どんな仕事でも、素人はしょせん素人で、いかにそのわざが巧みでも、いわゆる玄人にはとてもかなわない。“

この一篇では、器用にこなせる人はいるだろうけれど玄人の仕事には敵わないということを書いてるわけなのだけれど、私はちょうど最近若者を観察してて、なんでも器用にこなせる人が増えてることに怖さを感じていたところだったので、何かとても深く頷いてしまったのだ。

今の若者はどんな仕事に関わらず、さらっと動画編集ができたり、ライターとして文章も書けたり企画も考えることができて、趣味の世界でもSNSでフォロワーがたくさんいたり、とにかく多彩でいろんな才能を兼ね揃えてる人が多い。

昔は二つ以上の分野で活躍したりすれば「マルチクリエイター」なんて呼ばれていたけれど、今は何ジャンル抱えていたらマルチと呼べるのか?と疑問に思ってしまうぐらいだ。

かと言って動画編集できるからその道に進みたいわけでもなく趣味の世界で生活したいわけでもないのも特徴。そんな若者がもし漫画が得意で、同じステージで戦ってきたらと思うとゾッとするので胸を撫で下ろすのが本音である。

と、ここまで読んで、ちょっと待って、松下氏の一節とニュアンスが違うと思う・・・と思ったかもしれない。

そう、私が頷いたのは願いというか祈りなのだ。
なんでも器用にこなせる人には素人でいて欲しくて、玄人には玄人にちゃんとなりたいと思ってなって欲しいという祈り。

こんなこと言うと時代を後退させるのかもしれないが、いつの時代でも“本物“というものが存在してる世の中でいて欲しい。
じゃあ“本物“ってなに? と聞かれるかもしれない。
私もそれにうまく答えられないかもしれない。

ただ世の中の“本物“と呼ばれたものをつくった人がその“本物“を片手間に器用さだけで作ったのではなくて、情熱や大好きという気持ちでつくり上げたものであって欲しいという思いがあるのだ。

若者よ、どうかそんな“本物“を本物屋さんとして産んでいってください。

なんて……ここまで書いた文章は昭和のおばさんのとんだ戯言だな。世間の人からしたらルーツなんてなんでもいいのかもしれない。モチはスーパーでいいのかもしれない。

若者よ、自由に生きてください。

★★★

noteマガジン『僕らの時代』は、様々なフィールドでソウゾウリョクを発揮し、挑戦を続けている方々とコラボレーションしていく連載企画です。
一人ひとりが持つユニークな価値観と生き方を、過去からのメッセージに反響させて“いま”に打ちつけたとき、世界はどのように響くのでしょうか――。

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