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「性も生き方も、全部自分で選べるんだよ」元消防士&元警察官の同性カップルが伝えたいこと

左利きの人や、血液型のAB型の人と同じくらい、身近にいると言われているLGBTQ+。
今回、お話を伺ったKANE(カネ)さんと、KOTFE(コッフェ)さんは、交際13年目の同性カップルです。
KANEさんとKOTFEさんは、YouTubeやSNSで発信を行いながら、全国各地の学校や企業・自治体などで「個性を認め合うこと」の大切さを伝えています。
お2人の会話から、性別、国籍、障がいの有無、バックグラウンドなど関係なく、大人、子ども、みんなが幸せになれるヒントを探ります。

KANE and KOTFE
交際13年目の元消防士×元警察官の同性カップル。YouTubeで2人の日常を発信している。どんな場所にも当たり前 にLGBTQ+がいることを伝えるべく、 企業・自治体・学校等での講演や、各種メディア、イベントへの出演などの 活動も行っている。


ひた隠しにしてきた性的マイノリティ

ーーお2人はYouTubeのチャンネル登録者数だけでも1.2万人と、たくさんの人から注目されていらっしゃいますね。はじめに、現在の活動内容について教えてください。

KOTFE: 僕たちは、交際13年目の同性カップルです。「どんな場所にもLGBTQ+はいるんだよ」ということを伝えたくて、YouTubeやSNSで情報発信したり、メディアや講演会に出演したりして、たくさんの人にLGBTQ+について知ってもらえるように活動をしています。
 
KANE: 2人で発信を始めたのは、2021年の9月です。それまでは、僕は消防士として11年間、KOTFEは警察官として16年間働いていました。

ーー長くお勤めされていたようですが、仕事を辞めてLGBTQ+について発信をスタートしたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

KOTFE: いろんな理由がありますが、2020年6月に、僕が職場で倒れてしまったのが一つのきっかけです。「適応障害」という診断が出ました。それまで、僕は自分が同性愛者であることを、職場でひた隠しにしてきました。当時、万が一バレてしまったら、理不尽な人事異動がなされたり、昇進に響いてしまったりするかもしれない。いままで頑張ってきたものが、「ゲイだ」というだけで、すべてなくなってしまうことを想像すると怖かったんです。「彼女はいないの?」という質問に対しても、KANEを女性に置き換えて嘘をついていました。

KANE: 一緒に出かけるときも、恋人と思われないように2人の間に一定の距離を保ちながら歩いたりしたよね……。
 
KOTFE: 散歩していても「誰かに見られているんじゃないか」、レストランで食事をしていても「同性カップルだとバレたら、色眼鏡で見られるんじゃないか」と、常にびくびくしていたよね。このような小さなストレスが、積もり積もってしまったのだと思います。
 
KANE: それから、2021年3月31日付けで2人同時に退職しました。

ーー当時、KOTFEさんは39歳、KANEさんは35歳……。大きな決断でしたね。

KANE: ただ、そのころは次に何をするかも、明確には決まっていなくて。半年くらい、今後どうしていくか2人で悩みましたね。一方で、ずっと職場という組織に属するなかで、性的マイノリティであることを隠すということ、自分らしく生きてこられなかったことなど、さまざまな苦しみがありました。だから、また就職しようという考えは起きてこなくて。
 
KOTFE: 安定した収入を得られる職場を去り、「今後の人生、どうしていきたいかな?」と真剣に考えたときに「もう、残りの人生は、自分にも他人にも嘘をついて生きたくない」と強く思ったんです。そのようなとき、KANEが「YouTubeで発信してみない?」と提案してくれて。
 
KANE: はじめは、たくさんの人に情報を届けようというよりも、「僕たち2人の『家族の記録』を残そう」と考えていたんです。日本では同性婚が認められていないため、万が一、2人のどちらかに不幸なことが起きたときにも「家族の証明」が何もありません。だから、「僕たちは、12年以上一緒にいるんだよ」ということを、見える形で記録していこうとしました。ずっと公務員でしたので、過去の僕は、恥ずかしながら「毎月安定した収入がないのは怖い」「YouTuberなんて大丈夫なの?」とさえ感じていたのですが……。けれども、退職した時点で制限がなくなり、やってみたいこと、好きなこと、髪型や服装といった小さなことまで、自分の人生を自由に表現できるチャンスだと捉えるようになりました。挑戦してみて、嫌ならやめたらいい。仕事から離れたことで、自分のマインドもどんどん変わっていきましたね。

KOTFE: 発信をすることで「幸せに生きている同性カップルのロールモデルになれたら、誰かの希望になるかもしれない」という思いもありました。「カミングアウト」をすることに、怖さがまったくなかったわけではありません。これまで、日常生活でも、職場でもずっと隠してきたことですから……。でも、これからは胸を張って「ゲイだ」と言えない自分と決別したい。何より、新しい景色を見てみたい、という気持ちのほうが強かったです。

LGBTQ+の理解は本当に進んでいる?

ーー最近では、LGBTQ+や性的マイノリティという言葉も広がり、認知・理解が進んできたように感じます。 

KOTFE: たしかに、僕たちが小学生のころは、テレビでLGBTQ+の人たちがお笑いのネタにされていたり、男性同士で仲がいい人に対して「ホモだ!」とからかったりといったことが多かったのですが、そのころと比べると「プライドパレード(多様性を讃えるパレード)」や「レインボーグッズ(LGBTQ+を支援する意思表示を表す)」など、知る機会は増えているかもしれませんね。一方で、LGBTQ+は10人に1人ほどの割合でいると言われています。これは、左利きの人や、血液型で言うとAB型の人の数と同じくらいです。この事実は、あまり認知されていないように感じています。また、認定NPO法人 ReBitさんが2022年に10代のLGBTQ+の子どもたちに行った調査によると、48%の子どもたちが「自殺を考えたことがある」と回答しています。さらに14%が自殺未遂をしている現状がわかったんです。つまり、知る機会は増えていても、根本の解決にはまだ至ってないと感じています。

KANE: 僕自身は、自分が「同性に惹かれる」と気がついたのは、19歳くらいのころでした。ある程度、大人になっているといっても「僕は間違っているんだ」と真剣に悩みましたし、KOTFEと出会った12年前は「同性同士で幸せになれるはずがない」と、本気で思っていました。その後2年ぐらいは、自分で自分のことが受け入れられなかったんです。「ゲイ」と聞くと、「新宿2丁目といったところへ行く人」と思われがちですが、僕はそういったコミュニティにも行けませんでした。このような当事者はいまでも多いと感じています。ゲイを含めてLGBTQ+は特定の人ではありません。しかし、自分の隣に当たり前にいるという感覚の人は少ない。わざわざゲイカップルとしてメディアに呼ばれること自体が今の日本の現状だと思います。

KOTFE: 同性愛者に対するテレビのお笑いネタも、周囲のからかいも、多くの人は悪気があって言っているわけではないと感じていたんです。けど、それは誰かが悪いのではなく、僕たちみんなに「LGBTQ+について正しく知る機会」が用意されていなかったから。「知る機会を、一つでも多くつくっていくのが僕たち大人の役割」。こういった思いが社会全体に浸透していけば、未来はより良く変わっていくのではないでしょうか。

もし、周囲の人が悩んでいたら…

ーーもし、身近な人や自分の家族が性について悩んでいるかもしれない、と感じたときは、どのようにサポートすればいいのでしょうか。

KANE: LGBTQ+について、仮に「あの人もそうかもしれない」と思っても、実際は外見では判断できませんし、判断するものでもないです。一口にLGBTQ+と言っても、女性同性愛者や男性同性愛者だけでなく、両性愛者もいます。僕のように、同性に惹かれることを自覚しつつも、そのことを認められない人もいます。トランスジェンダーの方や、自分の性が時期によって変わる人、わからないと悩む人もいます。KOTFEも言っていたのですが、性はある意味“グラデーション”なんですよね。そのため、目の前の人が「しんどそうだな」と思ったら、いったんそういったカテゴリーは外したうえで、「大丈夫?」「何かあったらいつでも言ってね」と声をかけてあげるのがいいのかな、と僕は思います。
 
KOTFE: 身近な人が悩んでいたら、何とかしてあげたくなるものですよね。そのようなとき、周りの人ができることがあるとすれば、困ったときに相談できるような環境を作っておくことかなと思います。例えば、「最近、テレビでLGBTQ+について差別的な発言をした人がニュースになっていたけれど、私おかしいと思うんだよね」「幸せになる権利は、みんなが等しく持っているのに」と日常会話で意志を伝えるとか、レインボーグッズを身に付けたりして「味方だよ」ということを可視化するとか。「彼氏(彼女)はいるの?」という聞き方をせず「パートナーはいるの?」「それとも、パートナーシップは望んでいない人?」と、言葉をアップデートしたり、相手に選択できるような聞き方をしたりする。こんなふうにして、「言っても大丈夫なんだ」と思えるような環境を整えておくことが大切だと思います。

KANE: もし、目の前の人が友人や家族など、自分にとって「大切な人」なら、性的マイノリティ、国籍、障がいの有無はもちろん、どんなバックグラウンドがあっても関係ないと思うんですよ。あくまで「人」と「人」、「個」と「個」として向き合い、やさしさを伝えてあげてください。

差別のない社会をめざして

ーー次世代を担う子どもたちのためにも、多様性のある社会の実現に向けて、私たちができることはあるのでしょうか。

KOTFE: まずは「『違い』は間違いじゃないよ」ということを、浸透させていく必要があると考えています。子どもをおもちゃ屋さんに連れていく際も「男の子だから」と、いわゆる、男の子のおもちゃコーナーに直行するのではなく、入り口で「あなたが見たいところへ行っておいで」と声をかける。それで、女の子のおもちゃコーナーへ行っても咎めず、好きなものをチョイスさせてあげる。「全部自分で選べるんだよ」ということを伝え続けると、子どもたちも自分を肯定し、のびのびと成長していけるんじゃないかな。特に子どもたちと接する機会の多い大人には、子どもの声を、小さなサインを、見逃さずに聞く姿勢を持っていてほしいです。
 
KANE: 家族は距離が近い分、自分とほかの家族の「境界」があいまいになりがちです。子どもがやりたいこと、着たい服、考え方を、大人がコントロールせず、子どもたちの権利を尊重することが大切かなと。子どもには、子どもの人生があります。子どもを含めて、他者に対して多様性やその人の権利を尊重できないのは、自分自身の多様性や権利を尊重できてないからだ思うんですよ。だから、まず大人達が自分を信じて、自分の多様な部分を受け入れて、自分の権利を尊重することが大事だと思います。
 
KOTFE: 講演会などで全国の学校を回っていると、子どもたちは本当に素直だと驚かされます。僕たちが「男の子同士で“好き好き同士”のお友達に対して、ほかのお友達の誰かが『気持ち悪い』と言ったら、どうしますか」と尋ねた際、ある子が「私は『あなたも将来、同性を好きになるかもしれないのに、どうしてそんなことを言うの?』って言います!」と発言してくれて。
 
KANE: 僕はそれを聞いて、めちゃくちゃ泣いてしまいました。

KOTFE: 「自分の性や好きになる性も、自分で決められる」ということを、子どもたちは「そっか」と、偏見もなく受け入れます。改めて、差別や思い込みは、社会や環境がつくり上げてしまうのだと気づきましたね。あの子たちが大人になったころ、日本がどんなふうになっているかわかりませんが、大人の頑張りで、希望を持てるような社会にしたいな、と思っています。LGBTQ+に対してだけでなく、差別のない社会が実現することを願っています。
 
KANE: 僕は、まず自分が幸せでないと、誰かを幸せにすることはできないと思っています。だから、子どもだけでなく、大人たちもありのままの自分でいること。自分に正直でいること。自分のことを大切にできる社会が実現するとうれしいですね。2001年にオランダで、世界で初めて同性婚が認められました。いま、オランダの若者たちは「20年前、同性同士では結婚できなかったらしいよ。やばくない?」なんて会話をするそうです。日本も、10年、20年経ったころに、そのときの若者がオランダの若者のような会話ができる世界になっていれば、と思います。



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